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業務中の事故における従業員に対する損害賠償請求の範囲


(考察)
自動車事故について企業側が従業員に求めることのできる範囲は3割程度であると考えておいた方が良い気がする。

(事件概要)
平成25年5月○日 Xは、Y社従業員の指示によりY社車両を運転
B㈱営業所の駐車場でD工業の停車中の車両に衝突
同損傷による修理代金額は、Y社車両につき8万698円
相手方車両につき38万2,299円
同年7月25日  XはD工業に対して相手方車両にかかる損害額全額を支払った
Y車両にかかる上記損害額はYに対して支払われていない。

XがY社の業務を執行中に起こした物損交通事故
Xが、相手方車両の所有者に賠償金38万2,299円を支払った。
① 本訴同賠償額の支払いをY社に対して求めた。

Y社が、Xが起こした本件事故によりYが所有する車両が損傷したと主張
② 反訴修理代金として8万698円及び、これにかかる遅延損害金の支払いを求めた。

(争点)
(1) 労働者が交通事故の相手に対して損害賠償を履行した場合、逆に使用者に対して求償できるのか
被用者がその事業の執行につき第三者に対して加害行為を行ったことにより被用者(民法709条)及び使用者(民法715条)が損害賠償責任を負担した場合、当該被用者の責任と使用者の責任とは不真正連帯責任の関係にある。

民法709条(不法行為による損害賠償) :故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法715条(使用者等の責任) :ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

「不真正連帯債務(ふしんせいれんたいさいむ)」とは?
弁済以外で絶対効の規定が適用されない連帯債務のことを不真正連帯債務といいます。
例えば、Dに対してABCが30万ずつ合計90万円の連帯債務を負担しているとします。
この時連帯債務では、DがAだけに対して「30万円は支払わなくていい」と免除した場合、BCもこの30万円に対しては免除されます。
つまり、DがBCに対して請求できる額は60万円になるということです。
しかしこれが不真正連帯債務だった場合には、DがAに対して行った免除はBCには影響を与えず、BCは90万円をDに対して支払わなければならないということ

Y社とXの各負担部分は7対3と認めるのが相当
内容)
① 事故発生の危険性を内包する長距離の自動車運転を予定するもの
② 事故発生前後においても、少なくとも8日間を除きYの業務について稼働するなど業務量も少なくなかった
③ 自動車運転に伴って通常予想される事故の範囲を超えるものではない

(2) 使用者の労働者に対する損害賠償請求権は、信義則上相当と認められる限度に制限されるのか
直接被った損害のうちXに対し賠償を請求できる範囲は、その損害額の3割を限度とする。

(判決)
XからYに対する本訴請求については賠償額の7割相当額について求償権を認める
YからXに対する反訴請求については、Yに生じた損害額の7割につき損害賠償請求権の行使を制限するのが相当




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分限免職処分者への捜索や事情聴取に対する違法性


(考察)懲戒権者への捜索や事情聴取についても、これらに対する行き過ぎた対応は損害賠償に当たる事を理解しておく必要があると思われる。

(本文)
平成26年5月15日 巡回業務を懈怠したXに対する指導として、Xの制服の胸倉部分を掴み、持ち上げる等の行為を行った。
同月22日 Xが、大学時代に他人名義のキャッシングローンカードの所持利用の申告
E主席は上記の情報の提供を受け、捜索
その後、Xの車両から数社のキャッシングローンカードを取り出したため、事情聴取
事情聴取書を読み聞かせ、Xに閲覧して確認するよう申し受けたところ、Xの身体の震えは止まらない状態が続いたため、病院へ緊急搬送
同月30日まで 勤務
同年6月5日まで 年休を取得
同月6日以降 病気休暇を取得
27年1月9日 復職
同年2月2日以降 再度病気休暇を取得
同年3月26日 分限免職処分

被告国Yの処分行政庁から分限免職処分(公務の運用維持が妨げられると判断される場合に行われる。)を受けたXが、
主位的請求)
① 本件処分は裁量権を逸脱し、労基法19条1項に違反し違法である等と主張
Yに対し、本件処分の取消を求める。
労基法19条1項:業務上負傷し、休業する期間及び30日前後、産前産後期間及び30日は解雇×
② 暴行脅迫などの違法な行為を受けたために長期間の休暇を余儀なくされ、就労できない状況にある旨主張
国家賠償法1条1項に基づき、休業損害、慰謝料などの損害賠償を求めた。

予備的請求)
職場で暴力行為等の違法な行為を受けたことによりPTSD(強い精神的打撃が原因のストレス障害)を発症・悪化し、長期間の休暇を余儀なくされたと主張

(判決)
(1) 労基法19条1項違反の有無
国家公務員について、労基法19条1項の適用はない。

(2) 憲法14条1項違反の有無
国と地方公共団体では、経済的基礎や職務の内容、性格などにおいて相違があるのは当然
労基法の適用についても異なった定めがなされている。
憲法14条1項 :すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

(3) 裁量権の逸脱・濫用の有無
任命権者に相応の裁量権が認められる。
純然たる自由裁量ではなく、その処分が合理性を持つものとして許容される限度を超えた不当なものであるときは裁量権を逸脱・濫用したものとして違法というべき
Xの勤務成績は不良と言わざるを得ず、条件付き採用期間中のXを引き続き任用しておくことは適用ではないとの処分行政庁の判断には合理性がある。

(4) 指導行為を理由とする損害賠償請求が認められるか
D副看守長が、Xの胸倉をつかんで引き寄せ、激しい口調で詰問(きつもん、相手を責めながら、返事を迫って問い立てる)した行為は、巡回業務を懈怠したXに対する指導としてみても、不適切で行き過ぎた行為であると言わざるを得ず、国家賠償法上違法

(5) 捜索を理由とする損害賠償請求が認められるか
懲戒権者に認められる調査にも、非違行為が疑われる国家公務員のプライバシーへの配慮などから制約があることは当然
調査の必要性・相当性を欠いている場合には、認められる調査権限を逸脱したものとして国家賠償法上違法
Eらが目的を説明しないままXに向かったことは、Xが拒否することを困難にさせると共に、関係資料を任意で提出させる機会を十分に与えないまま捜索を行なおうとするもの
Xからの承諾を得る方法において相当性を欠くものであり、任命権者の調査権限を逸脱したものとして国家賠償法上違法

(6) 事情聴取を理由とする損害賠償請求が認められるか
他人名義のキャッシングローンカードの所持利用という非違行為に該当し得る事実の調査として、Xに事情聴取
カードや預金口座への入金について説明させる必要がある。
本件事情聴取の態様も相当性を欠くとはいえない。

(7) 配置転換義務を怠ったことを理由とする損害賠償請求が認められるか
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なう事がないように注意する義務がある。
職場復帰後、Xが構内外巡回や監視卓勤務をすることによって精神障害を悪化させることの予見可能性があったといえず、Xにこれらの業務を命じたことは違法ではない。

(8) Xに生じた損害の有無及び額
Xが故意に巡回を懈怠したうえに虚偽の説明・報告をした
原因の一端はXにもある
Xが自由な意思で回答できる状況か否かの配慮が不足していたものの、態様は相当性を逸脱するようなものではなかった。
精神的苦痛に対する慰謝料の額は、10万円と認めるのが相当

嘱託職員の差別的取扱いに対する違法性


(考察)
現在では、
労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
業務の内容、業務の責任、職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情について不合理と認められるものであってはならない。
通勤手当、食堂の利用、安全管理などについての相違は特段の理由がない限り合理的とは認められない。

による争点が多いように思いますが、どちらにしても、労働基準法13条のような規定がある訳ではないので、損害賠償請求権としての主張に至ると思われます。

旧パート法9条1項の賃金除外による退職金を嘱託職員にだけ支給しないことについては、差別的取扱いとされており、参考になる。

(本文)
平成27年3月31日 Y1の解散に伴い解雇
同年4月1日 Y1は存続期間満了により解散
同月10日 その旨の登記を行った。
Y2は、京都市立翌場を設置し、Y1の財産の全額を拠出してこれを設立した普通地方公共団体である。

雇用先の法人の解散に伴い解雇された原告のうちX正規職員ら10名が、
 Y1財団に対し、
Y財団の退職金規程に基づき算出された退職金に未払いがあるとして、Y2市と連携して未払退職金の支払いを求め
 Y2に対しては、
(i) 主位的に、Y2市は実質的にはY1財団の共同経営者の立場にあったとして、Y1と連帯して未払退職金の支払い
(ii) 予備的には、Y2がXらの退職金を含むY1の財源を確保する義務を負っていたにも関わらず怠ったことが違法
Y1との共同不法行為が成立するとして、国賠法に基づき、Y1と連帯して未払退職金相当額の支払い

解雇された原告のうちX嘱託職員ら4名が、
旧パート法8条2項及び、同法8条1項該当性を主張
Y1は、労働契約は同法8条2項に該当せず、同法9条1項は退職手当を賃金から除外しており、退職金にかかる差別は同法8条1項が禁止する差別的取扱いには含まれないと主張

旧パート法9条1項 :職務の内容、成果、意欲、能力又は経験を勘案し、賃金(通勤手当、退職金を除く)を決定するように努める。

 Y1に対し、
嘱託職員の退職金規程を定めていなかったことは、短時間労働者の雇用管理の改善などに関する法律8条1項に違反する差別的取扱いであるとして、

旧パート法8条1項 :短時間労働者の待遇と通常労働者の待遇を相違する場合、業務の内容及び、責任の程度、職務の内容及び、配置の変更の範囲、その他を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

(i) 主位的に、退職金規程に基づき、
(ii) 予備的には、不法行為に基づき、Y2と連携して、退職金規程が定められていればX嘱託職員らに支払われたであろう退職金相当額の支払いを求め、
 Y2に対しては、
Y1のX嘱託職員らに対する上記違法な差別的取扱いについて、共同不法行為責任を負うとして、国賠法に基づき、Y1と連携して、退職金相当額の支払いをそれぞれ求めた。

(判決)
 X嘱託職員らの期間1年の有期労働契約が5回から13回にわたって更新されてきた。
 更新時には契約内容の交渉もなく、X嘱託職員らがY1の用意した文書に押印して提出すると更新通知書が送られていた。
 X嘱託職員らの給与は正規職員のそれに比して月10万円程度低かった。
 業務内容及び責任の程度は全く同じであり、嘱託職員でも主任になるものがいた。

X嘱託職員らが、正規職員には退職金が支給されるのに対し、何ら退職金を支給されないことについての合理的理由は見当たらない。
X嘱託職員らに退職金を支給しないことは、旧パート法8条1項が禁ずる短時間労働者であることを理由とした賃金の決定に関する差別的取扱いであり、違法と言わなければならない
旧パート法には、労働基準法13条のような補充的効果を定めた条文は見当たらない。

労働基準法13条 :この法律で定める基準に達しない契約はその部分は無効
無効となった部分はこの法律で定める。

旧パート法8条1項違反によって、X嘱託職員らの主張するような請求権が直ちに発生するとは認めがたい。
損害賠償請求権のみが認められた。

Y1設立の経緯、Y1の運営に対するY2の関与、Y1の解散、その他本件に関する一切の事情を総合勘案
Y2がY1の実質的な共同経営者であるとは認められず、
Y2が法人格の異なるY1のX正規職員らの退職金を確保すべき義務を負うと認めるに足りる的確な証拠もない。
Y2がY1と共同して責任を負うと認めるには至らない。

破産会社従業員らによる関連会社への損害賠償


(事件概要)
Y1社から製版業務を受注していたフジ製版で就労していたXらが、
不当な値引き等によりフジ製版の経営を悪化、
破産させて組合員の排除を図ったと主張
Y1社ら(Y1社、取締役会長Y3、Y3の子である代表取締役Y2)
フジ製版の破産手続開始申立時の代表取締役であったY4(Y3の兄弟で、Y1社の元常務取締役)
破産手続開始申立直前までの代表取締役であったY5
の共同不法行為に当たるとして、
賃金相当額と弁護士費用などの損害賠償
任意懈怠による会社法429条1項に基づく損害賠償を請求

(判決)
Xらの請求をすべて棄却

経営悪化の主な原因は値引きではなく製版業界全体の経営状況の悪化にあったことも踏まえると、
Y1社への請求の値引きによる影響は極めて限定的
仮に下請け法に違反する値引きの事実があったとしても、
Xらとの関係で当然に違法性を基礎づけ、不法行為を構成するものではなく、
フジ製版の破産を企図し、Xら組合員の排除を狙った意図は認められないとして請求を退けた。

労務不提供に対する損害賠償請求の有効性


(考察)
退職時の引継ぎ業務が出来ない場合の対策が難しいと思われる。

(重要文言)
<雇用契約>
被用者が使用者に対して負う義務が仕事の完成ではないことに徴する。
Yの責めに帰すべからざる事情がある以上、
Yが引継ぎを果たすことが出来なかったとしても、債務不履行責任を負うとはいえない

(訴え)
X社が、元従業員Yに対し、
① Yの労務不提供により損害が生じたことを理由として債務不履行に基づく損害賠償
② Xが外部から請負Yに担当させていた業務に就いて、Xが支払いを受けるべき報酬の支払いをYが受けた旨を主張
不当利得の返還又は債務不履行に基づく損害賠償などを求めた

Yが、X社に対し、
③ 在職中の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金などの支払い
④ Yの退職申し出に対し、X社が違法な態様でこれを引き留めた旨を主張
不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償などを求めた

(判決)
労務の不提供であり債務不履行によって損害が生じたとするXの請求を棄却
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