(考察)
人格権について、改めて確認できた判例であると思う。
(参考文言)
戸籍上の氏名について、
① 氏名が人格権の一内容を構成すること
② その氏名を他人に冒用されない権利を有すること
③ それを違法に侵害された者は、加害者に対し、損害賠償を求めることが出来る
④ 現に行なわれている侵害行為の差し止めを求めることが出来る
氏名を自ら使用することが、
いかなる場面で、いかなる目的から、いかなる態様で妨害されたとしても
法的な救済が一切与えられないとすることは相当ではなく、
氏名を自ら使用する利益は、民法709条に規定する法律上保護される利益であり、
「氏」についても同様といえる。
民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
しかし、
戸籍上の氏は戸籍制度という公証制度により支えられているもの
婚姻前の使用実績という事実関係を基礎とする婚姻前の氏に比して、より高い個人の識別特定機能を有している
職場という集団が関わる場面において職員を識別し、特定するものとして戸籍上の氏の使用を求めることには合理性、必要性が認めらえる。
(訴え)
Y学園に勤務するXが、業務に当たり通称として婚姻前の氏を使用することを希望
Yにより戸籍上の氏を使用することを強制されたと主張
① 人格権に基づき、時間割表などにおいてXの氏名として婚姻前の氏名を使用することを求める
② 人格権侵害の不法行為又は労働契約法上の付随義務違反による損害賠償請求権に基づき慰謝料などの支払いを求めた
(判決)
婚姻後に通称として婚姻前の氏を使用する利益は、
婚姻前に戸籍上の氏のみを自己を特定するものとして使用してきた期間における当該氏を使用する利益と比して、それと同程度に大きなものであるとはいえない
職場が関わる場面において戸籍上の氏の使用を求めることは、現時点でそれをもって違法な侵害であると評価することはできない
違法な人格権の侵害であると評価することはできない
人格権に基づく妨害排除請求も理由がないといわざるを得ない
労働契約法上の付随義務に違反したとは認められない
(考察)当たり前の判決であると思われる。
(事件概要)
<正社員登用試験の受験資格など>
正社員の欠員状況や必要人数
Yの経営状況や事業計画等を総合的に勘案したうえで決定
雇用期間が満4年に達した者に対して「直近の」正社員登用試験の受験資格を与えるという点がXらとYとの間の契約社員にかかる雇用契約の内容となっていたといえないと認めるのが相当
Yの債務不履行責任の点については理由がない
(考察)
非常に当たり前の話であるとは思われるが、判決の考え方は参考になる。
(重要文言)
「継続勤務」(労基法39条)については、勤務の事態に即して実質的に労働者としての勤務関係が継続しているか否かにより判断すべき
空白なく再任用が繰り返される非常勤職員について、「継続勤務」該当性に関する解釈は確立していたと認められる。
(事件概要)
1年間の任期で、非常勤職員に任用
平成17年3月1日から24年3月31日まで繰り返し任用
(訴え)
年次有給休暇付与日数について、不足する年休日数に対応する賃金相当損害金の賠償を求める。
公法上の義務の不履行または国賠法1条1項に基づき、慰謝料の損害賠償などを求めた。
(判決)
債務不履行について帰責事由がないとはいえない。
不足日数全部について年休を取得した蓋然性が高いと認めるに足りない。
不足する年休日数に対応する賃金相当損害金との間に因果関係があるとは認められない。
損害額を20万833円とした。
(考察)
いつもと同様に権利が侵害されたかどうかが争点になっている。また、社会評価を低下させる場合であっても、真実であり、違法性がなく、論評としての域を逸脱したもの出ない限り、故意または過失は否定される。
(重要文言)
名誉棄損に当たる不法行為や雇用契約上の義務違反等の更新を拒絶する合理的理由があったとは認められない
不法行為といえるためには、Y組合の権利が侵害され
権利を違法に侵害していることを知ることができたと認めるに足りる相当な理由
違法な名誉侵害であると知ることができたと認めるに足りない
(事件概要)
平成25年7月、YはXの再雇用契約期間満了に先立ち、ブログでYを誹謗中傷して損害を与えているとの理由で契約を更新しないことを通告し、就労を認めなかった。
60歳定年後、1年間の再雇用契約を締結した後、期間満了後の更新を拒否されたことに対し、地位確認と賃金支払などを請求
(判決)
本件更新拒絶を認めず、Xの地位確認請求を認めた。
一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、その内容がYの社会的評価を低下させるものであれば不法行為となり得る。
公共の利害に関する事実に係わり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、適示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときは違法性がなく、
この証明ができなかったときも、行為者において真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意または過失は否定される
事実に関する意見ないし論評の表明においても、その行為が公共の利害に関する事実に係わり、
かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合には、前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があれば、
人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限りにおいて違法性を欠き
真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意または過失は否定される
(考察)
もちろんな判決だとは思うが、派遣先にも不法行為が発生する理由を明確にした判例であると思う。取締役の責任原因についても今後の参考になる。
(重要文言)
原告Xの出退勤の管理や作業の内容・方法に関する具体的な指示は、Y1が行っていたもの
Y2の従業員であるXとの間において、特別な社会的接触の関係に入ったもの
安全配慮義務を負っていた。
本件)
道板がXの体重に耐え得るものかあらかじめ確認し
安全でない道板を撤去し
または、より頑健かつ安全なものと交換するなどの義務
道板上で作業しないこと及び作業時に安全帯を使用することについて遵守するよう管理監督すべき義務
<取締役の責任原因>
安全配慮義務違反及び不法行為責任について、Y3に悪意または重大な過失があったことを具体的に示す的確な証拠はない。などとして否定
(事件概要)
Y2社と雇用契約を締結
Y1社に派遣
Xが、転落事故
(訴え)
主位的にはY1社らについての不法行為
Y1についての土地工作物責任にかかる共同不法行為に基づく損害賠償
Y1およびY2の安全配慮義務違反
Y3取締役としての任務懈怠責任に基づく損害賠償
(判決)
Y1およびY2の共同不法行為を認める。
Y3に対する請求などについては棄却
損害額:1,703万9,623円