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うつ病悪化による自殺と安全配慮義務


(事件概要)
22年6月3日から8月31日 Kが、うつ病、適応障害の病名で89日間の病気休暇
職場復帰してから約半年後の異動
23年4月1日付 AセンターB係の業務主任として勤務
指導係であった業務主任のCから暴行(パワハラ)
同年12月14日 E所長に対し、体調が思わしくない旨申出
同月15日 F1医師作成の診断書を提出
診断書「90日程度の加療及び自宅療養が適切といった旨が記載」

うつ病を悪化させて自殺したなどとしてKの両親Xらが、Y市に対し
安全配慮義務違反の債務不履行または国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料等の支払いを求めた。

国家賠償法1条1項 :公務員が故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた時、国又は公共団体がこれを賠償する。

(争点)
(1) パワハラの存否
訴えは一貫しており、裏付けるパソコンに保存された写真、録音等も存在
十分信用に値する。

(2) 安全配慮義務違反の成否
職場環境調整義務として、良好な職場環境を保持する義務
パワハラの訴えがあったときに、
調査し、
指導、
配置換えなどを含む適切な措置を講じるべき義務を負う。

本件)
Kのパワハラの訴えに適切に対応しなかった。
違反したものというべき

(3) 死亡との間の相当因果関係の有無
EがKから自殺念慮(死にたい)を訴えられた直後に主治医や産業医等に相談をして適切な対応をしていれば、Kがうつ病を増悪させ、自殺することを防ぐことができた蓋然性(確実性)が高かったものというべき
既往症があったとしても、素因(原因)として考慮すべきであっても、相当因果関係があるかどうかは別問題

(4) 損害の内容及び額
慰謝料2,000万円
逸失利益3,799万3,337円

(5) 過失相殺等の可否
うつ病の既往症による脆弱性(もろくて弱い性格)が重大な素因となっていることも明らか
Xらは、両親として、不安定な状況や病状悪化等について認識していたことが認められる。
主治医等と連携を取るなどして、Kのうつ病の症状が悪化しないように配慮する義務
合計7割としてこれを減ずることが相当


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管理監督者の長時間労働に対する安全配慮義務違反

(考察)
安全配慮義務に関する判例を見れば見るほど、義務を果たすという壁が高いことを実感する。

(重要文言)
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身を損なう事がないよう注意する義務を負うと解するのが相当
使用者に代わって労働者に対し、業務上の指揮監督を行う権限を有する者は使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべき
本件)
口頭聴取をしたのみで、具体的な改善策を講じなかった。
退勤時間が遅くなっている理由については特段の聴取すらしなかった
労働時間が長時間に及んだ原因を特段分析もしておらず、軽減する措置を採っていないといわざるを得ない。

定期健康診断を実施したり、口頭聴取をしたというだけでは、Y1社が安全配慮義務を尽くしたとはいえず、違反が認められる。

<過失相殺>
労災事故による損害賠償の場合においても民法722条2項の類推適用を認めている。

民法722条(損害賠償の方法及び過失相殺)2項
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
本件)
死亡1か月前の業務時間は軽減されていた
喫煙をやめるよう指摘されていたのに喫煙を続け
肥満を解消することもせず、食事制限もせず
過失割合を3割

(事件概要)
Y1社の従業員であったKの死亡は、過重な業務に従事したことによるものであると主張
Xらが、
Y1社については、労働時間を適正に把握し、適正に管理する義務を怠った不法行為による損害賠償などの支払い
代表取締役であったY2らについては任務懈怠があったとして会社法429条1項に基づく損害賠償などの支払いを求めた。

会社法429条1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

Kは、課長代理であったが、店長も兼務していた。
店長の労働時間管理は、各従業員と同様、自身でパソコンに入力して自主管理するというもの
課長代理を兼務していたため、GPSによる時間管理が行われていた。
死亡する前月分の賃金は45万4,250円で、うち役割手当は6万円

(判決)
Kの労働時間は、発症前1か月間に59時間57分、
同2か月間の平均が93時間11分
同6か月間の平均は112時間35分
少なくとも約5か月間、Kは、平均120時間以上の時間外労働を続けていたので、既往症の影響よりも、むしろ長期かつ長時間の過重労働が強く影響していた可能性も高い。

Kの死亡により生じた損害について
逸失利益を4,983万余円
慰謝料を2,700万円
遺族であるXらの固有の慰謝料として各100万円
葬儀・葬祭関係費150万円

過失相殺は3割

出向元による長時間労働の安全配慮義務違反


(考察)出向元に対しても、不法行為が発生するという所が参考になる。
(重要文言)
亡Kの自殺
出向労働者を指揮命令下に置いて使用するに際し、
① Kの労働時間、業務の状況
② Kの心身の健康状態を適切に把握し、

労働時間が長時間に及ぶ等業務が過重であるときは、
③ 人員体制の拡充などの措置により業務負担を軽減する措置

労働契約上の安全配慮義務があったとして、不法行為に基づくY2社の賠償責任が認められた。

出向元・Y1社は、
① 出向労働者が長時間労働をしていないかを定期的に報告させること
出向労働者が長時間労働をしているときは、
② その旨を報告するよう指示すること
③ 業務負担の軽減の措置を取ることができる体制を整える義務

不法行為に基づくY1社の賠償責任が認められた。

(重要条文)
民法709条(不法行為による損害賠償) :故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(事件概要)
Kの死亡は業務上の疾病によると認定
自死の直前約2ヶ月、月172時間及び月186時間

(判決)
Y2には、損害の賠償責任を負う(民法709条)

逸失利益 :4,105万3,000円
死亡による慰謝料 :Kに2,000万円、Xら各200万円
葬儀費用 :150万円


労災認定された自殺についての安全配慮義務違反の有無


(考察)
労災保険の決定とは異なる判決を示しているところが大きい。

(重要文言)
労災保険の支給決定がなされた家電量販店のフロア長であった亡Kの自殺
遺族が行った安全配慮義務違反を理由とする民事損害賠償請求
使用者に安全配慮義務違反は認められないとして棄却

業務の負荷を検討するにあたって、体感前に喫煙所や事務所内でほかの管理職と雑談するなどの時間があり、
体感までずっと作業に従事していたわけではない
勤怠記録の出退勤記録ではなく、就業時間ないし時間外労働時間を算定すべき

労働時間のみをもって極めて強い業務上の負荷を受けていたと直ちに評価することはできず、業務に関する諸般の事情を考慮する必要

(判決)
作業期間中の具体的業務に就いて、特段の負荷が生じる内容であるとは認められず、
Y社の支援・協力体制に不備があったとはいえない
人間関係についても特段問題はなかった
Kが精神障害を発症していたか検討するとして、労災医員意見書には直接これを裏付ける証拠は示されておらず、
同僚らのアンケートによれば、うつ病の症状があったとは認められず、発症を認める証拠美ない

Xらの主張は前提を欠く。

安全配慮義務違反と過失相殺


(考察)
安全配慮義務に関する判例としては良くあるものであるが、過失相殺についてはかなり厳しい判例であると思われる。今後の参考になる。

(重要文言)
自殺するに至ったことについては、既往症が重大な要因となっていることは明らか

原告Xらは、Kと身分上又は生活上一体関係にあるものとして、Kの病状を正確に把握したうえで、
医師などと連携して、Kを休職させ、適切な医療を受けさせるよう働きかけをし、自殺を防ぐために必要な措置を採るべきであった

過失相殺または過失相殺の規定(民法722条2項)の類推適用により、損害の8割を減ずるのが相当

(事件概要)
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して職員の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う

安全配慮義務を怠ったことによって、本件既往症を増悪させ、自殺するに至った。

安全配慮義務違反とKの自殺との間には、相当因果関係がある。


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