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賞与の在籍要件の有効性

考察)
就業規則の作成をするに当たって、当たり前に記載されている賞与を支払する基準日の在籍要件について記載された判例です。
 賞与を将来の労働への意欲向上や将来の貢献への期待という要素を併せ持つ。
 賞与は賃金と同視することができず、また、企業が賞与の支給に関して基準日における在籍要因を設けること自体に合理性が認められる。
という考え方からすると、支給した賞与の返還請求も考えられそうですが、
労働基準法11条では、賞与についても賃金にすると明記されているので、難しいのかな?

本文)
原告Xら(いずれも4月生まれ)がY社の賃金規程が4月に定年を迎え同月末日で定年退職する者のみ期末手当を支給しない仕組みとしているのは合理性のない差別的取り扱いに該当し、
公序良俗に反し違法であると主張

Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成28年度の下記手当相当額の賠償金及び遅延損害金の支払いを求めた。

昭和62年4月1日付で定めた就業規則
45条
① 社員の定年は満60歳
② 定年退職日は社員が定年に達する日の蔵する月の末日

141条1項
期末手当は、6月1日(夏季手当)及び12月1日(年末手当)(以下、両日を基準日)にそれぞれ在職する社員及び基準日前1か月以内に退職し又は死亡した社員に対して支給
142条
調査期間は、夏季手当については前年12月1日から5月31日まで、年末手当については6月1日から11月30日までとする。

平成元年4月1日付 → 期末手当の調査期間等の取扱に関する協定(同年6月1日付)を締結 → 28年4月1日付で、同年度の夏季手当の支給に関する労働協約を締結
141条1項改定
年末手当の基準日を11月1日
142条改定
調査期間を夏期手当については、前年10月1日から3月31日まで、年末手当については4月1日から9月30日まで

平成28年4月末日でXらは定年退職
退職日の属する年度の夏季手当の支給を受けられなかった。

判決)
Xらの主張を全面的に退けた。

① 賞与が査定対象期間における労働に対する報償的な性質を有するにとどまらず、将来の労働への意欲向上や将来の貢献への期待という要素を併せ持つ
② 企業においては多数の従業員に対する賞与の支給事務を迅速かつ画一的に行う必要がある。

企業が賞与の支給について、支給日に近接した基準日を設け、
当該基準日に企業に在籍していることを要求することは、当該企業の経営上の裁量に属する事項として合理性が認められる。

賞与は賃金と同視することができず、また、企業が賞与の支給に関して基準日における在籍要因を設けること自体に合理性が認められる。
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歩合給と残業代の計算方法に対する労基法37条の有効性


(考察)この頃、歩合給と残業代との算出根拠が裁判で争われるケースを目にするが、歩合給を給与に反映する企業には参考になる。
(重要文言)
労基法37条の趣旨
同条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまる。
使用者に対し、同条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない
<支払ったか否かの判断>
通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討
 判別できる場合
算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討
<計算根拠>
売上高等の一定割合に相当する金額から労基法37条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の賃金とする旨が定められていた場合
当該割増賃金の支払いが同条の定める割増賃金の支払いといえるか否かは問題となり得るものの、
当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であるとはいえない

(訴え)
Y社に雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXらが、
歩合給の計算に当たり、残業手当に相当する金額を控除する旨を定めるYのタクシー乗務員賃金規則上の定めが無効
Yは控除された残業手当等に相当する金額の賃金支払義務を負うと主張
Yに対し、未払賃金等の支払いを求めた

<割増賃金の計算方法>
歩合給=対象額A-(割増金+交通費×出勤日数)
対象額A=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62
割増金=深夜手当+残業手当+公出手当
基本給や服務手当の額を基準とした金額に一定乗率を乗じた額
対象額Aを基準とした金額に一定乗率を乗じた額との合計

歩合給と割増賃金の調整に対する有効性


(考察)歩合給と割増金の算出に当たり、画期的な判例であると思われる。
(重要文言)
賃金規則
歩合給の算定に当たり、時間外・休日・深夜労働による「割増金」に相当する額が
対象額A(算定基礎額)から控除される結果、
「割増金」が支払われても、その分だけ歩合給が減少することになる
本件規定は労基法37条および公序良俗に違反しない

賃金の算出方式をどのように定めるかは、強行法規に違反しない限り当事者の自由というべき

揚げ高から経費に相当する部分を控除する算出方法をとることは不合理ではなく
揚げ高が同じであったとしても、時間外労働等がされた場合における労働の成果は、
時間外労働等に伴う残業手当等の増加により経費が増加する結果、相対的に低くなる

労使間で、あらかじめ、これを見越して残業手当等その他の経費に相当する金額を控除する方法で歩合給を算出するような方式について合意することを否定すべき理由はない

対象額Aから「割増金」などを控除した金額がマイナスになった場合でも、歩合給をゼロにするにとどめていて
残業手当等は、時間外労働等が行われていれば、必ず支給されることになる
労基法37条の趣旨を没却し、同条による規制を潜脱するものとは認められないとされた

交通費自体は必ず支給されるのであり、歩合給の算出に当たって交通費相当額が経費として差し引かれるにすぎないとして違法ではない

同じ揚げ高の場合に時間外労働等が少ないほど、歩合給が高くなるような算出方式を定めることも合理性がある

<賃金規則>
基本給
服務手当(タクシーに乗務せずに勤務した場合の賃金)
深夜手当
残業手当
公出手当
歩合給(1)=対象額A-{割増金(深夜手当、残業手当および公出手当の合計)+交通費×出勤日数}
最低補償給
交通費

対象額A={(所定内揚げ高-所定内基礎控除額)×0.53}+{(公出揚げ高-公出基礎控除額)×0.62}

「割増金」と歩合給(1)を合計した実際の支給額には変動はない
歩合給(1)がゼロ以下になることはない

<法解釈>
歩合給は、労働基準法27条の「出来高払い制その他の請負制」の賃金であると解され、
同条は、出来高払いその他の請負制の賃金制度の下で、
出来高が少ない場合でも、労働者に対し通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入が保障されるよう、
労働時間に応じ一定額の賃金の保障をすることを要求している。

行政通達レベルでは、歩合給制度のうち特に累進歩合制度については、これを廃止すべきものとされている(平成元年3月1日基発第93号)
趣旨は、累進歩合制度は、営業収入などをその高低に応じて段階的に区分し、
階級区分の上位になるほど歩率を逓増させるものであるところ、
このような累進歩合制度の下では、歩率の変動する営業収入の直前の労働者に次の段階に到達するため長時間労働やスピード違反等を誘発させる結果になり易いという点にある

労基法37条は、割増賃金を支払うべきことを定めた規定であって、歩合給の算出方法について規制している規程ではない

就業規則等の定めによる計算方法が法定(労基法施行規則19条1項6号)の算定方法と異なっていても、算出される金額が法定の割増賃金額を下回らない限り、労基法37条違反ではない(昭和24年1月28日基収第3947号)

使用者の責めに帰すべき事由と休業手当


(考察)
休業手当の支払いに関して、新たな発見があった判例である。今後の不利益変更について考えさせられる。

(重要文言)
ノルマ未達成を理由の配転命令につき、
賞罰規程の目的は、困難な売上高の達成を求めるもの
達成できなかった場合には、直ちに固定給を月額10万円減額するか、他の支店に異動させるという制裁を課すもの
過酷に過ぎ、著しく不合理
本件配転命令が権利の濫用に当たる

破壊されたXとの信頼関係は、本件配転命令を撤回し、誓約書を提出しただけでは回復したとは認められない
撤回後も出勤していないのは、Yの責めに帰すべき事由
民法536条2項により、本件配転命令の撤回後も賃金支払い義務を負う

労基法26条は、使用者の責めに帰すべき事由によって不能となった場合、
使用者の負担において労働者の最低生活を6割以上の限度で補償しようとする趣旨に出たもの
使用者の責めに帰すべき事由により、違法に配転命令を受け、これにより発令前の勤務部署に出勤することが出来なくなった場合
適用ないし準用される

Xが他社から支払いを受けた給与などを控除すべきであるが、
その限度は、XがYから受けた給与の4割に相当する額にとどまる

(参考条文)
民法536条(債務者の危険負担等)
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

労基法26条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

労基法114条(付加金の支払)
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
第20条(解雇の予告)
第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第39条(年次有給休暇)

(事件概要)
平成24年7月1日付でY社に入社
平成25年9月12日付
「M社員」を対象とする賞罰規定
月間受注ノルマを200万円
ノルマを達成できなかった従業員に対して、Y側で決定する支店へ異動または、
雇用条件を変更(固定給が月額約10万円低い「S社員」等)

同年9月度に売上高200万円を達成できなかったところ
平成25年10月18日、本件配転命令が発令
以後、Yに出勤しなかった。
Xは、他社において就労し収入を得ていた。

Yは、本件訴訟継続中の平成26年8月15日、配転命令を撤回、福井市店への出勤命令を発令
誓約書を提出

信頼関係が確立しているとはいえないとして、出勤を拒否

(訴え)
Xが、福井市店から長野支店への配転命令を受け、その有効性を争ったことを契機にして出勤していない
① 1か月あたり29万円の未払い賃金
② 未払いの時間外労働賃金
③ 労基法114条所定の付加金及びこれらに対する遅延損害金

(判決)
Xは、50年近く福井市内で暮らし、発令当時は妻子と同居していた
内示もないまま突如として長野支店への異動を命じられることは、X及びその家族にとって生活上著しい不利益となることは明らか
権利の濫用によるものであって、違法

未払い賃金額を算定するにあたって、他社から支払いを受けた給与などを控除するべき
XがYから支払いを受けていた月額29万円の4割に相当する11万6,000円にとどまる
6割が休業手当

歩合給賃金規定の有効性

(感想)
歩合給を用いるための一つの考え方であると思う。
当たり前とは思いながらも、これに近い形で実情は運用している企業も多いと考えられる。
付加金の対策については一つの考え方として捉えることができる。

(重要文言)
タクシー乗務員である原告Xらに支払われる歩合給の計算に当たり、計算の基礎となる「対象額A」から時間外手当及び深夜手当等割増金を控除する旨定めているYの規定は、労基法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反する
民法90条により無効

<労働基準法>
37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金) 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

<民法>
90条(公序良俗) 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

交通費を実費支給する旨の規定とともに、歩合給の計算に当たり対象額Aから「交通費」として交通費に見合う額を差し引く旨の規定が明記されている。
これを無効と解すべきとはいえない。

Yが労基法37条の規定自体に違反したものとは認められないことになるから、Yに対して付加金の支払いを命じることはできない。

(訴え)
タクシー乗務員であるXらが、Y社の賃金規則は無効であり、Yは、控除された残業手当等相当額の賃金支払義務を負うと主張
未払賃金及び、これに対する遅延損害金の支払い、労基法114条に基づき付加金等の支払いを求めた。

(判決)
割増金と交通費の合計額が対象Aを上回る場合を別にして、揚げ高が同じである限り、時間外などの労働をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は全く同じになるのであるから、本件規定は、法37条の規制を潜脱するものといわざるを得ない。
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