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試用期間中の解雇

平成24年6月28日、この頃は、一人親方や、下請を使用して仕事をしている工務店などでも、事故が気になったり、元請けからの指導の下で、労災保険の加入数が増えているように思います。

私でも、この頃だけで4件の労災新規手続きを行いました。

さて、今回の判例は、試用期間中の解雇についてです。
私の認識では、学卒者の試用期間中の解雇は、皆無に等しいという考えでしたが、この判例では、途中解雇が認められていることに驚きと、教養を広めることが出来たという喜びを感じております。



(事件概要)

Xは、平成20年4月から新卒者(試用期間6か月)として勤務(試用期間中の同年7月29日)→ 技術社員としての資質や能力などの適格性に問題があるとして、同月31日付の解雇の意思表示を受けた。→ 解雇権の濫用に当たり無効であると主張(判決)→ 試用期間開始から4か月弱経過したところで、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るだけでなく、睡眠不足については改善とは言えない状況(研修に臨む姿勢)→ 疑問を抱かさせるもの → 今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身に着ける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態(Xの認識・Yの努力)→ 解雇回避義務違反、手続き違反というXの主張を退けた。→ 本件解雇の相当性を認め、Xの控訴を棄却

1. 就業規則 :平成20年4月1日付で変更(改正前)→ 就業規則7条は「新たに採用する職員には、原則として6か月間の見習い期間を設ける。見習期間中は、会社はいつでも採用を取り消すことが出来る。」(改正後)→ 規定8条には「見習い期間中の途中又は終了時に、能力、勤務態度、健康状態などに関して不適当と認められるものについては、定められた手続きによって解雇する。」

2. Xの研修時 :入社当初の平成20年4月からの全体研修において、本人や周囲の者の身体や安全に対する危険を有する行為を3件行い指導員から注意を受けた。
<その他>
① 研修日誌の提出期限を守れないことが多く、時間意識に薄く門限を破るとか消灯時間を守れないことが複数
② 寝坊して玉掛研修を受講できなかった。
③ 作業中に居眠りするなど睡眠不足から事故を起こす懸念を指導員から指摘

機械研修 :同年7月24日のスクイズポンプ操作に当たり、ショートを起こした。(加えて)→ 指導員から、パーツ表の確認不足、睡眠不足、集中力欠如を何度も指摘 → 事前の段取りを怠ったり、作業に必要でないことにこだわったり、指導員に聞くことなく、事故の判断で行ったことで手戻りが多い。→ 想定されている時間より時間を要することが多かった。→ Yは、本来の予定であれば機械研修を終えて実施研修に移行すべき時を超えて機械研修を受けていた。

3. 解雇経緯 :Xの時間に対する意識や規則を守るべきとの意識について疑問を抱く。(改善の可能性について難しいと判断)→ 技術社員としての適格性を有しないとして、試用期間中の平成20年7月20日前後頃、Xとの雇用契約を解消(自主退職を促し、それが受け入れられない場合には解雇)→ 同月24日にXの母親と面談 → 試用期間中は自由に解雇できる旨の話をした。(同月29日)→ YのE部長は、I部長、D部長と共にXと面談 → 7月末日をもって退職してもらうことになったが、自主退職を選択するか、解雇を選択するかを問う。(解雇理由)→ 自分から辞めることは出来ないので、納得するまで考えさせてほしい、退職願は自分では出さない旨の返答
<解雇理由>
① 睡眠不足で集中力を欠くことが多い。→ 指導員が注意したが改めることがない。→ 現場に行ったときにけがをする危険性が高い。
② 改正前の就業規則を示して、現時点では見習いで、正式な社員ではない。
③ 研修中、門限を破ったり、やることをやったうえで外出すべきところをそうしなかった等

4. 試用期間中の解約権の留保 :採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することが出来ない。→ 後日における調査や観察に基づく最終決定を留保する趣旨でされるものと解される。→ 今日における雇用の実情に鑑みるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性を有するものとしてその効力を肯定できる。(留保解約権に基づく解雇)→ 通常の解雇と全く同一に論ずることは出来ない。→ 前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の事由が認められてしかるべきものと言わなければならない。

5. Xの認識・Yの努力 :改善の必要性を十分認識 → 必要な努力をする機会を十分与えられていた。→ Yとしても本採用すべく十分な指導、教育を行っていた。→ Yが解雇回避の努力を怠っていたとは言えないし、改めて告知・聴聞の機会を与える必要もない。
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雇止めの合理性

平成24年6月27日、現在労働保険の更新でバタバタ中です。
普段の仕事に追加で来るのが大変ですねえ。
皆さんは、順調に終了していますか?
大変な時は是非とも、来年は私に任せて下さい。

さて、本日の判例は、雇止めの有効性についてです。
雇止めに合理性があるのに、社会的相当性において認められない場合があることに、新たな発見を見いだせる結果となっております。


(事件概要)

19年7月、被告Y社はZから事業譲渡 → Zに雇用されていた講師などは全てYが雇用(同年12月16日)→ 原告Xは、訴外Z社と期間1年の雇用契約を締結 → 従来通り英会話の授業などの業務に従事(平成20年9月10日)→ Xの講師評価を作成したXの上司であるスクールマネージャーのQは、全11項目中、3項目について3段階中の下位の評価を、残りの8項目については中位の評価 → Qは、この時点においてXの講師としての能力について、講師として継続することを前提に、中庸のレベルにあると評価(20年9月11日)→ YからR主任が各行の管理者に宛てて、本件組合の組合員3名について、Rメールを発出(本件雇止め)→ 更新拒絶は無効であると主張 → 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および雇止め後の賃金支払いを求める。→ 本件雇止めは組合潰しのために行われたもの → 不当労働行為に該当し違法無効であるなどと主張(結論)→ 本件雇止めを無効 → Xの地位確認及び賃金支払い請求を認容(平成21年1月から本判決確定の日まで)→ 毎月末日に限り32万3,000円及び各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による。

1. 契約内容 :中途解約及び雇止めを行う際には1か月前に書面をもって申し出る。(契約の更新)→ 行使の勤務成績や顧客評価などを勘案 → 更新する場合がある旨の定め

2. 本件組合 :平成19年8月9日に雇止めの通知を受けた外国人講師A1の加入により組合活動が復活(20年8月1日)→ さらに1名加入したため、Yにおける組合の組合員はXを含め3名(同年9月24日)→ 組合の支部が再結成され、Xがその執行委員長に就任

3. Rメール :どんなに小さいことでも気になる行動は報告すること


(考察)

4. 雇止め :Xがレッスン中、生徒に自分の腹部を触らせるなどの問題行動、不適切行為、業務命令違反が数多く発覚 → 平成20年9月27日、10月30日、11月30日にXに対して警告書を発出 →  Xは同警告書に署名することを拒否(平成20年11月5日)→ Xに対し同年12月15日の期限経過をもって本件契約が更新されない旨を通知

5. 解雇権濫用法理の類推適用の可否 :XがYで本件雇止めを受けるまでZから通算して10年間にわたり雇用 → Zにおいて8回、Yにおいて1回の契約更新を経ている。(ZないしYにおいて)→ 最初の契約が更新された後に雇止めとなった外国人講師は、東京ではX以外にはいなかった。→ Xにおける契約更新の期待に合理性が認められる。→ 解雇権濫用法理が類推適用されるものと解するのが相当

6. 期待権 :ZからYへ変わっている点 → Zの営業全部の譲渡 → 同本部所属の講師・職員はすべてYが雇用契約を承継 → 外国人講師については契約期間も残存期間を引き継ぐ取り扱いをしている。→ Xの雇用継続に対する期待を失わせるものではない。

7. 雇止めの合理的理由の存否 :判断基準が必ずしも厳格なものであることを要しない。→ 雇止めの合理的理由の存在を肯定し得る余地は十分にあるといわざるを得ない。(社会的相当性)→ Rメールは組合活動の活発化を警戒 → これを把握しておきたいとの意図 → Xを含む組合員3名をターゲットにして情報の収集を求める。(Xの問題行動等)→ 当該情報収集がなければ、雇止め自体が存在しなかったという関係にある。→ 社会的に相当なものであるといえるかについては重大な疑問が存する。(20年2月の段階)→ 管理者とXとのミーティングを先行(Rメール発出後)→ これをせず警告書を発出 → 指導の在り方として疑問なしとしない。→ Xが組合員であったことに起因して課せられた不利益 → 社会的に相当なものであるとは認めがたい。
① セクハラと受け取られかねない重大な事実も含まれている。 
② 外国語教室の講師というXの職務の一般的な性質
③ 平成18年12月の契約更新時に再研修措置が取られている。
④ XがYの指導を素直に受け入れる姿勢を示していない。

<Xの問題行動等>
Rメール発出後に発覚したことが明らかな事実 → Rメールが契機となって把握されたものであると認められる。→ Rメールがなければ本件雇止めの理由として主張される事実の大半はYにおいて把握されない。(平成20年12月15日)→ 契約更新されていた可能性が極めて高い。
(a) YがRメールを発出した後に発覚した事実が多い。
(b) Rメール発出直前までは、QはXの雇用継続を前提とする判断をしていた。

勤務態度、非違行為に対する解雇

平成24年6月19日、本日は労働保険の年度更新の仕事をしておりましたが、台風が激しくなってきましたので、早めに帰り、子供と遊んでおりました。

本日の判例ですが、解雇の有効性、違法性について、判断しております。内容としては、相変わらず解雇事由に対して一つ一つ確認をしております。
法律遵守と、現状の労働条件について、意見が交わされている面が、若干気を惹きました。


(事件概要)

Xは、Sビルで勤務(平成18年6月)→ 同僚らの仲違い及び顧客からのクレームを契機として、Y社は、Xの配置換えを決定(平成19年6月22日)→ この件に関連して、Xの言動に問題 → 解雇を通告(Yを相手に提訴)→ 本件解雇が違法であるとして不法行為に基づく損害賠償(逸失利益等)を請求 → 本件解雇及び勤務中の勤務数減少その他の言動などの不法行為により精神的苦痛を受けたとして慰謝料も請求
 Y社 :誤送業務や警備業務などを主な事業内容
 解雇理由 :総合的に見て信頼関係の回復が難しく雇用継続が困難
 解雇の有効性・違法性 :解雇事由として主張する事項は、その存在が認められないか、解雇事由に該当すると認められないか → 解雇事由に該当するとしても当該事由に基づいて解雇することが客観的合理性及び社会的相当性を有するとはいえない。→ それ自体権利濫用に該当し、不法行為に該当
 Xの言動等 :Xの業務引き継ぎ帳への記載、Xへのクレーム、Xのリーダーに対する言動、配属拒絶、勤務配置にかかる言動、上司・同僚への損害賠償請求メール送信、上司への対応、会長への抗議文の送付等


(考察)

1. Xの勤務配置にかかる言動 :平成18年11月12日から原則週6日勤務に変更されて以降、Yに対し、再三にわたり週7日勤務の希望を表明 → 勤務予定表にも週7日勤務希望と記載してYに提出(説明)→ Yは、Xに対し、YによるXの6日勤務の方針は、労基法の労働時間規制遵守の観点から、労働日数及び時間につき週5日(週40時間)勤務に月間残業時間40時間を加えた時間内に抑えるため行っているもの → 同方針を維持 → Yの同方針にもかかわらず、Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続 → Yの配置担当者がXの休日の調整を別途することとなった。(就業規則31条8項、16項)→ 抵触する側面があることは、否定できない。(①から③)→ Xの行動を解雇事由とすることには、客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない。
 就業規則31条(服務の原則)8項 :会社の方針、諸規定を守り、上司の指示・命令に従うこと
 同条16項 :職場内の風紀秩序を常に配置し、自分勝手な行動をとらないこと
① Xの賃金が時給制であり、勤務日数や勤務時間の減少は、収入減少に直結するもの
② 原則週6日勤務への変更が、何らの事前説明や協議がされることなく行われ、その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいない。
③ Xは、勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出 → Yから週6日勤務の方針の維持を伝えられれば、同方針に従って勤務を継続していたもの(Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因)→ 週6日勤務の方針について、Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄 → その理解と納得を得る手続きを踏まなかったことが指摘

2. 上司・同僚への損害賠償請求メール送信 :平成18年11月7日にD課長およびSビル同僚らに対して送信した損害賠償請求メール(内容)→ 高額の損害賠償請求を行うこと及びこれに対して誠意ある対応を取らなければ法的措置を行うこと(当該内容及びその送信行為自体)→ 不穏当なもの → 少なくとも就業規則31条16項に抵触するものと評価せざるを得ない。(損害賠償請求メールの送信に至った経緯)→ 相応の理由があったというべき(加えて)→ 職場内の風紀が著しく混乱したと認められないことも併せ鑑みれば、客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない。
 損害賠償請求メールの送信に至った経緯 :Xは、YからS勤務時と比べて収入面その他の労働条件で遜色のないPへの配置の内示を受けながら、十分な説明も協議も経ないまま同内示を取り消され、上司の判断次第で2号警備に配置されることとなることを前提とした経済産業省への配置提案を断ると、そのまま2号警備を継続させられたことにより大幅な減少を余儀なくされたもの(減少などの経緯)→ S同僚やDに帰責事由があると考え、損害賠償請求を行うことを決意するに至った。

3. Yからの度重なる差別的な勤務数減少その他の言動による不法行為の成否 :Xが不法行為を構成する事実として主張する事柄は、その存在が認められないか、または独立の不法行為を構成するほどの違法性を有するものであったと評価することは出来ない。
 勤務数減少 :YがXのみを差別的に取り扱って週1日の休日を取らせることとしたYの措置自体が違法性を有し、不法行為を構成するとまでは評価できない。
① 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないもの(労基法35条1項)→ YがXについて原則週6日勤務とすることとした措置 → 同法所定の当該義務を履行する側面を有するもの
② X以外にもYにおいて概ね週1日の休日を取っているものがいる。

懲戒処分の可否

平成24年6月18日、本日は建設業の仕事をしている一人親方に対して、労災保険の説明を行ってきました。
意外に、細かい内容については皆さん分かり難いようで、説明をする価値があったと思いました。

さて、今回の判例は、久々に懲戒処分に関する内容でした。

相変わらず、懲戒については細かい内容をつつかれることが多く、今回も就業規則通りにはいかず、懲戒処分を否定されている。



(事件概要)

B社は、赤字経営に終始して経営が悪化(平成20年10月)→ 破綻手続き開始決定 → Y法人は、長崎県などにおけるBの破たん原因についての調査・検証(過程)→ XがYの服務に関する規定などに照らして必要な手続きを経ずに勤務時間中にB関係の業務に従事していたことが明らか(就業規則等)→ 平成15年度から平成21年度までのXがB業務に従事したことを示す資料を提出するよう求めた。→ Xの代理人弁護士は、資料の提出が出来ない旨の回答(就業規則46条)→ 懲戒処分が無効(次より)→ 損害賠償金などの支払いを求め、懲戒処分が不法行為を構成 → 慰謝料および弁護士費用などの支払いを求める。→ 懲戒処分を無効(以下a~b)→ 請求を認容 → 故意または過失によりXに対して無効な本件懲戒処分 → Xの教育研究をする権利、名誉などの権利が侵害 → 不法行為に基づく損害賠償金などの支払いを求める請求 → 慰謝料200万円および弁護士費用80万円の限度で認容
a. 懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認
b. 未払い賃金又は債務不履行による損害賠償金などの支払いを求め
c. 懲戒処分により研究費減額分相当の損害を被った → 研究費の減額が本件懲戒処分によるものであると認めることは出来ない。→ 請求を棄却
1. B社 :Xが、平成15年10月17日、医薬品の研究・開発の受託業務などを目的 → 代表取締役に就任
2. Y法人 :Y大学などを設置運営する法人 → Xの使用者たる地位を長崎県から承継


<就業規則等>
 就業規則4条 :法人及び職員は、誠意をもってこの規則を遵守しなければならない。
 Y職員兼業規程11条 :理事長は、必要に応じて、許可を与えた職員に兼業の実施状況の報告を求めることが出来る。
 就業規則46条 :次より停職6月の懲戒処分(処分理由)→ 兼業従事許可期間において、本来兼業が認められていないYの勤務を要する日または勤務を要する時間内に、勤務日または勤務時間の振り替え申請を行うことなくBの業務に従事(以下の(a)~(f))→ Xが勤務時間内の兼業従事について承認がなされていると認識していた場合 → このような兼業従事を理由として懲戒を行うことは許されない。
 1号 :職員が次の各号のいずれかに該当する場合は、懲戒処分を行う。
 7号 :正当な理由なく無断欠勤した場合
(a) Yが、長崎県と共に、XがBの代表取締役として兼業に従事することについて全面的に支援・後押し
(b) 企業立上げ時の業務を行うに当たって、Xにおいて勤務時間内に業務に従事することが避けられない。→ 通常人であれば容易に理解できた。
(c) 長崎県又はYの関係者が同席してBに関する行事が行われている。(長崎県及びY)→ XがYの勤務時間内にこのような行事に参加・出席等してBの業務に従事しているとの認識を有す。
(d) 長崎県又はYが、Xに対し、振り替え申請を行うことなく勤務時間内にBの業務に従事 → 非違行為であるなどとして注意・警告をしたことは全くなかった。
(e) Yは、教員の労働時間について、規程上は時間労働制である。(しかし)→ 実態として裁量労働制と同様の運用 → 規定と異なる運用実態があった。
(f) Xが、長崎県及びYの上記(a)~(e)のような行為(長崎県及びY)→ Xに大学教員としての本来の服務に支障を生じさせない限度で勤務時間内にBの業務に従事することにつき承認しているものと認識していた。
3. 資料提出が出来ない旨の回答 :その資料に基づいて懲戒を受ける恐れが高い。→ 懲戒処分を回避するためであったと認められる。(資料提出の拒否)→ 停職処分を行うことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することは出来ない。

労基法3条違反

平成24年6月17日、子供が早く寝たので、もう一つ判例を読んでみました。
判例は、次の通りです。
中国人研修・技能実習生として働いているものに対して、賃金の支払いに関する訴えについて、最低賃金法で争っています。
これについては、いつもと変わらない結論であると思われますが、日本人従業員との賃金の違いについては、明確な結論が導かれていると思います。


(事件概要)

原告A・B・C・D・E(以下「Xら」)は、いずれも中国国籍の男性(平成19年6月25日)→ 外国人研修・技能実習制度に基づいて、第1次受入期間であるエヌ・ビー・シー協同組合(以下、「NBC」)を通じて来日(同年7月10日)→ 鋼材の加工および販売を主たる目的とする被告Y社の事業所で業務に従事(来日後)→ NBCの研修センターでの日本語教育、Yでの会社概要の説明や儀礼・態度の訓練などを受けた。(19年7月17日)→ 東松山工場内で実際の鉄筋加工の作業を開始(研修期間中)→ 工場において実際の作業を実施する中で、指導役の日本人授業員がXらに対し作業手順や注意事項、儀礼などを指導 → 座学などの非実務研修は行われなかった。

外国人研修・技能実習制度 :日本での滞在期間3年(1年目)→ 労働者ではない「研修生」として実習研修だけでなく、日本語、技術についての非実務研修を研修期間全体の3分の1以上行うこととされている。(2,3年目)→ 労働者である「技能実習生」として技能実習が行われる。(しかし)→ 業務・職種の範囲は法令で限定されている。

作業 :勤務カレンダー通りの勤務(時間外職務や休日職務はなかった。)→ 研修期間中、YがXらに支払った研修手当の額は、月額6万円(食事代含む)→ 技能実習期間、日本従業員と大きく異なるものではない。(勤務日や勤務時間)→ 時間外勤務や休日勤務も含め日本人従業員と異ならなかった。(技能実習期間)→ 月額12万2,000円、時間外勤務手当や休日勤務手当の額は、多い月では7万円を超えることも少なくなかった。

日本人従業員の賃金 :平成19年から21年におけるYの高卒初任給は16万5,000円(格差)→ 月額4万3,000円


<本訴事件>
XらはYの寮に居住(技能実習期間中)→ YはXらの賃金から住宅費・水道光熱費を控除 → 賃金控除についての労使協定が存在しない。→ 上記控除は労基法24条1項に反し無効

Yは、Xらの意思に反してパスポートおよび通帳を取り上げ、不快な漫画の提示などのセクシュアルハラスメントや人種差別的言動をする等の不法行為

<反訴事件>
Xらが平成22年6月24日退去するまでYの寮に居住(同年1月12日以降)→ 就業していなかった。→ Yが住宅費・水道光熱費および社会保険料を賃金から控除することが出来なかった。(これらの支払いを求めるとともに)→ 不法行為に基づき、Xらの退去時に要した粗大ごみの撤去費用などと同額の損害賠償を求めた。


(考察)

公序良俗 :研修契約および技能実習契約中、賃金に関する意思表示は、強迫によるものとは認められない。(Xが来日を決意した理由)→ 3年間日本に行って働けば少なくとも220万円を手にして帰国できる。→ 脅迫取り消し及び公序良俗違反の主張を退けた。

労基法3条違反 :制度の特質に基づく合理的な差であると認められれば、労基法3条の解釈上、当該格差は許容される。→ Xらが必ずしも十分な日本語能力を有せず。→ 完全に同等の業務遂行能力を有していたとは認めがたい。(有形無形の負担)→ YはXらを受け入れるために、3年間で、一人当たり約180万円の費用を負担している。(約74%という格差)→ 合理的な範囲内にあると解することが出来る。

労基法3条 :使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

最低賃金法 :法形式の如何にかかわらず、その実態が使用者の指揮監督の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかによって判断(研修期間中)→ 労基法9条および最低賃金法2条1号の「労働者」にあたる。→ 最低賃金との差額につき、「一人当たり73万5,096円の未払い賃金請求権を有する」

労基法24条1項違反 :Yには、住宅費・水道光熱費を賃金から控除 → 労働者代表との間で書面による協定がある。→ 違反しない。

住宅費・水道光熱費の日本人従業員との格差 :福利厚生として平等に利用料を負担させるべき → Xらに過大な寮費を科すことにより最低賃金を潜脱することにもなりかねない。→ 従業員の負担額である1万円を超える額を控除する旨の合意は、労基法3条に違反 → 1万円を超える部分に相当する額について賃金請求権を有する。

慰謝料 :パスポートおよび通帳の保管およびセクシュアルハラスメントの点(不法行為に該当)→ 慰謝料および弁護士費用の請求を認容 → 原告Eについて45万円、その余のXらについて各40万円

寮費や社会保険料立替金、粗大ごみの撤去費用等 :一部を除き、Xらは、Yに対して支払い義務がある。

管理監督者性

平成24年6月17日、本日は子供の写真撮影に行ってきました。
本当に子供の成長は早いもので、ポーズまで取っていたのには驚かされました。
さて、今回の判例ですが、管理監督者性を認めることが出来るかどうかが大きく判断に影響し、今回についても、管理監督者性を総合考慮した上で、管理監督者性を認めることは出来ませんでした。



(事件概要)

被告Y社は、訴外A銀行東京支店などの関連会社から受託した業務を行う外国法人(平成19年12月)→ 原告Xは人材紹介会社の紹介を受け、Yに入社(Aへ出向)→ 採用時に期間の定めのない労働契約が締結 → Xの年棒は1,250万円(3か月の試用期間満了時)→ Yから本採用を拒否(本件)→ 未払残業代とその付加金、企業型確定拠出年金にかかるYへの返還金の引渡し、別件労働審判においてY代理人が誤ってXの住所を記載した申立書を裁判所に提出 → それが誤送され、誤送先の住人が開封した恐れがあることによって苦情を受けた。→ 損害賠償をYに請求

労働契約 :Xは、Yに採用される前から訴外Bが所有する訴外物件を貸借して居住 → 入社に伴い社宅制度の利用を申し入れた。(訴外物件に関る賃貸借契約)→ YとBで新たに締結(平成20年4月末)→ YがXの本採用を拒否 → 賃貸借契約を解約して明け渡す旨をBと合意(しかし)→ Xが訴外物件に居住を続けている。(同年6月)→ Bが、YおよびXを被告として別件建物明渡訴訟を提起(20年10月)→ YはXを相方として、XがYの従業員たる地位を有さないことの確認を求める別件労働審判を申し立てたものの棄却(異議申し立てにより地位確認本訴事件に移行)→ Xも地位確認などを求める反訴を提起

別件訴訟判決 :Xに試用期間を適用しないとする個別合意があったと認められない。(一方)→ Xに業務遂行上の問題 → 上司からの注意指導に反発するなど就業規則の解雇事由が存在(解雇権濫用の評価根拠事実も認められない。)→ Xの請求を全て棄却(Yに対して)→ 基本給月額が約104万円であることの確認(Yおよびその採用時の人事担当者であった被告Cに対して)→ 欺罔行為ないし怠業により訴外物件に関する訴訟を提起(代理人からプライバシーにかかわる事実を吹聴され、前記労働審判を申し立てられるなどの行為)→ 経済的・精神的損害を受けたとして損害賠償を請求する関連訴訟を提起(東京地裁)→ 紛争解決のために必要ないし友好的説と認められる特段の事情がないとして賃金の確認請求を却下(損害賠償請求)→ YおよびCの行為に不法行為を構成するほどの違法性はないとして、棄却


(考察)

Xの管理監督者性 :以下の内容が必要(①における業務に対する裁量性は認められる)→ 職務の内容、労働時間管理の裁量性、賃金上の処遇からみて、業務に裁量性は認められる。→ 統括的な業務を担当していたわけではなく、労務管理上の決定などに裁量性はない。→ 労基法41条2号の管理監督者に当たらない。(労働者の担当業務に裁量労働制類似の裁量性がある。)→ 管理監督者であるとはいえず、インターネットバンキング担当のVPというXの職務上の地位や権限は、労働時間規制の適用が排除されても保護に欠けるところがないとするほど高次のものではない。

① 職務の内容が、少なくともある部門の統括的なもの(部下に対する労務管理上の決定等)→ 一定の裁量権を有している。

② 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有している。

③ 一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること

時間外・深夜・休日割増賃金を含むとする労働契約の有効性 :割増賃金を年棒に含める取り扱いは、年棒のうち割増賃金に当たる部分とそれ以外の部分とを明確に区分することが出来る場合 → その有効性を認めることが出来る。(法内残業についてはこの限りではなく)→ Yの賃金規程上も年棒制対象者に割増賃金を支払わないことが明記 → 法定外の時間外労働・休日労働・深夜労働に関する割増賃金の請求のみを認めた。

Xの労働時間 :最寄駅のIC乗車券の出入場記録に関して、Xが事後的に手帳に記載した可能性は否定できない。(Yの保持するオフィスへの出入記録)→ すべてを記録するものではない。→ その時間帯に在室していた事実を超えてオフィスにいなかったことを証明するものではないとして退けた。(IC乗車券の出入場記録)→ 間接証拠、補助証拠にすぎない。→ 手帳の記載が直接証拠に当たるとして、そのほかメールの発信時刻、上司との面談記録などからXの労働時間を認定

Xに支払われるべき残業代の額 :(3)の通り(割増賃金の計算)→ 社宅制度利用に伴う給与減額について、この制度の税法上、社会保険上のメリット・デメリットを踏まえた明確な合意が当事者間にない。(労働者であるXに不利にならない方向での合理的意思解釈)→ 減額後の月額賃金に家賃額の95%に当たる現物給付がされていたもの → 賃金月額を認めるのが相当(週休二日)→ どちらが法定休日か明確な定めはない。→ 週休二日制の成立に鑑み、旧来からの休日である日曜日が法定休日があると解するのが一般的社会通念に合致する。→ 特段の事情がない限り、日曜日を法定休日とする黙示の定めがあったと解するのが相当

付加金請求の可否 :訴状の提出時点で除斥期間を経過していたとして棄却
除斥期間 :権利行使の期間が限定され、その期間内に権利行使をしないと権利が消滅すること

企業型確定拠出年金の積立金にかかる返還請求の可否 :企業型確定拠出年金の再信託資産管理機関は事業主へ積立金を返還することが年金規約上定められている。→ 解雇が有効であればその返還は有効 → Xがその返金を求める余地はない。

別件労働審判申立事件における申立書の誤送にかかる損害賠償請求の可否 :弁護士の業務の独立性にかんがみると、依頼者であるYと使用従属関係はない。→ Yは不法行為責任を負わない。

災害補償規定作成による任意の保険契約の有効性

平成24年6月2日、今日は子供とウルトラマンのショーを見に行きました。

子供の表情を見るだけで、結構面白かったです。

今回の判例は、災害補償規定を作成して契約した任意の傷害保険の有効性を判断した判例です。

私のように、保険の代理店もしている人間については、かなり重要な判例であり、災害補償規定を作成した保険契約をするときは、本当に考えながら行わないと、取り返しのつかないものになると思いました。



(事件概要)

被控訴人Yの親方制度のもとで子方としてトラックの運転手をしていたAが、トラック運転中の交通事故によって死亡 → Aの妻である控訴人Xが、Aの使用者はYであるとして、Yに対し、YがAを被保険者とする交通事故傷害保険契約に基づいて取得した保険金に相当する額の弔慰金を求めた。

交通事故 :同年4月26日、高速道路をトラックで走行中に大型トレーラーに追突 → 自車進行方向の車外に投げ出され、自車後輪に頭部をひかれ、頭部打撲により死亡

交通事故傷害保険契約 :平成7年11月10日に訴外保険会社Nとの間で、本件契約を締結 → Nに対し、添付書類として、「災害補償規程」と記載された文書を差し入れ(この差し入れがあったことにより)→ Nは本件契約についての被保険者らの同意があったものとして、本件契約を締結(本件契約の約款)→ 締結の際、その者の同意を得なかったときは、本件契約は無効とする旨の規定(平成8年3月9日)→ Nとの間で、Aを本件契約の被保険者に追加する旨の合意(同年10月2日)→ Nは、Yに対し、Aの死亡による本件契約による保険金5,000万円を支払った。→ Yは、本件規定の存在を従業員や親方・子方に告知したことはなく、Xが本件契約の存在を知ったのも、本件事故後

Yでの運転手 :Yが仕事を発注ないし依頼する「親方」→ 親方の下で運転手として働く「子方」および純粋の従業員とに区分(平成8年1月22日)→ Aは、親方である訴外Sの子方として、Yの業務に関するトラックの運転手として働いていた。

<弔慰金>
① 主位的にはYの制定した災害補償規程に基づく。
② 予備的には、第三者のためにする契約に基づき、Xに支払う義務があると主張 → 災害補償金5,000万円等の支払いを求める。
③ YがAに過重労働をさせたという安全配慮義務違反に基づく損害賠償金を支払う義務がある。→ 同損害賠償金500万円等の支払いを求めた。


(考察)

<争点>
① Aは、Yの従業員といえるか :直接間接の指揮監督関係があったといえる。→ 本件規定の適用や安全配慮義務の前提となる実質的な使用関係を否定するものではない。→ AはYの従業員であったと認めた。

② Yの従業員は、本件規定に基づき、災害補償金の支払い請求権を取得するか、取得するとして、その金額はいくらか :(Yの従業員が交通事故により死傷などした場合)一括して単一の保険契約で付保する保険 → 死亡保険金だけでなく、後遺障害保険金および入院保険金などについてもYに支払われるもの → 団体定期保険以上に濫用などの危険性を包含するもの → これを無制限に認めると賭博的契約が行われたり、保険金目当ての犯罪を誘発する危険性がある。→ 団体定期保険以上に弊害を有する。(商法674条の準用)→「団体定期保険の沿革、趣旨、目的にその濫用の防止、弊害の防止のために運用の改善を行ってきた経緯に鑑みると」(個々の被保険者の同意がない場合)→ 保険契約者が災害補償制度を創設し、従業員に対する災害補償金の支払い原資に充てるために従業員を被保険者として保険契約を締結する場合 → 被保険者となる従業員やその遺族の利益にもなる。→ 個々の従業員が被保険者となることに同意しているものと合理的に推認されるだけでなく → 経営者による従業員に対する同意の押しつけや、安易な同意などによる同意主義の濫用の防止にも寄与(他方)→ 個々の従業員の同意を得ることは事実上困難 → 災害補償規定を保険会社に差し入れれば、前記約款などの趣旨は実質的に満たされているもの → 保険契約は有効(災害補償金の額)→ 本件規定における死亡補償金5,000万円の定めは、Yから死亡した従業員の遺族に支払う死亡補償金の上限を定めたものと解する。(災害補償金の具体的金額)→ 諸般の事情を考慮した社会的相当額と定めていた。→ YがXに支払うべき災害補償金を3,000万円と認めた。

商法674条1項 :「他人の死亡の保険契約」であれば、原則として被保険者の同意を要する。通説は、同意は契約成立の条件ではなくその効力発生のための要件と解する。したがって同意がない限り保険契約は効力を要しない。この規定の趣旨は、先ほど述べた、①保険契約を賭博的目的に使用されることの防止と②モラル・リスクが生じるのを防ぐこと、③他人を勝手に被保険者にするのはその人の人格権侵害となるからである。団体定期保険も「他人の死亡の保険」である以上は、商法674条1項の適用を受け被保険者たる従業員の同意は必要であり、同意がない場合には保険契約は無効となる。

③ 損害賠償請求に関して
(ア) YによるAに対する直接の指揮監督関係はあったか :争点①の通り

(イ) 本件事故の事故原因 :Aの疲労による居眠り運転である。

(ウ) Yの安全配慮義務違反の有無 :Aは激務により相当疲労していたと認められる。→ Yは、貨物自動車運送事業者として雇用する運転手が自動車の運転という高度な「注意義務に応じた集中力を維持したうえで業務に従事できるよう就労環境を整えるべき労働契約上の注意義務を負っている。」→ Aに疲労運転をさせないよう配慮する労働契約上の義務があったにもかかわらず、Aの勤務状態をかなり過重なまま放置したと認めざるを得ない。→ 安全配慮義務違反の過失

(エ) 損害額 :Aは本件事故時シートベルトをしていなかった。(過失相殺割合を2割)→ Xが給付された労災補償を控除した結果、損害残額は3,474万余円

くも膜下出血発症・死亡と業務起因性

平成24年6月1日、今日は本当に平和な一日でした。

何が平和かというと、本当に久々にすることがなく、早く帰ることが出来ました!

さて、今回の判例は、業務起因性に関するものです。労災保険で業務中と認められるかどうかの判断基準について、考察しております。

接待を労働時間に含むかどうかの判断が斬新であり、質的過重性、量的過重性についてもしっかりと判断されていると思われる判例でした。




(事件概要)

亡Kは平成13年にZ社に入社(ZがC社に納入した機器やソフトに関して不具合が発生した場合)→ Cからの連絡を亡Kが24時間受ける体制(重大な障害の場合)→ 亡KがCに出向くこともあった。(平成17年9月29日)→ 亡Kは大阪にある単身赴任先の住居から新幹線で東京の本社に出張 → Cとの会議に午前10時から午後4時30分頃まで出席(会議終了後)→ Cの社員らと共に居酒屋に赴いて会食 → 亡Kは脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(本件疾病)を発症(同年10月9日)→ 死亡(訴え)→ Xは、亡Kの本件疾病による死亡が業務上の事由によるもの → 労災保険法に基づき遺族補償年金及び葬祭料の請求(原処分長であるY労基署長)→ 本件疾病は業務上の事由に基づくものではないとして不支給決定 → 本件処分の取り消しを求める訴え → 亡Kの死亡が業務に起因するものであるか否かが主たる争点 → 亡Kの業務と本件疾病との間の相当因果関係を認める。→ 本件処分の取り消しを命じた。


(考察)

業務起因性 :労働者が発症した疾病などが「業務上」のものというためには、当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず → 両者の間に相当因果関係、すなわち業務起因性があることを要すると解するのが相当(基発第1063号)→ 本件当時は、携帯電話の移行時期 → 80%程度の完成度で市場に商品を投入(その後)→ 問題点に対処しながら100%に近づけていくというやり方 → 初期トラブルが多かった。→ 保全と営業を担当し、Cとの折衝をする立場にあった亡Kのトラブル対応の負担は重かった。(①から⑤を総合)→ 私的リスクファクターをもって、本件発症と業務との間の相当因果関係を妨げるに足りるものであるとは認められない。

① 基発第1063号 :厚生労働省による脳・心臓疾患にかかる認定基準 → 一応の合理性を有しているもの(元となった専門検討会報告書に示された医学的知見自体)→ 脳・心臓疾患の発症機序はいまだ十分解明されていない部分もある。(認定基準ないしそれ自体の判断枠組み)→ 裁判所の判断を拘束するものではない。

② 自己申告制 :出退勤管理が採られていたうえ、管理職であったために正確な出退勤時刻が明らかではない。(労働時間)→ おおむね午前8時45分頃から業務を開始し、昼には約30分の休憩時間をとり、おおむね午後8時ないし午後10時ころまで仕事をしていた。(午前8時以前に大阪事務所を出る場合)→ Cや関連会社の役員などと飲酒を伴う接待に赴いたり、大阪事務所社員との懇親会に出席したりしていたことも認めている。

(i) 接待 :一般的には、業務との関連性が不明であることが多く、直ちに業務性を肯定することは困難(亡Kが行っていた接待)→ 事実を踏まえると、亡KがC等を交えて行っていた飲食は「そのほとんどの部分が業務の延長であった」と判断(大阪事務所の社員らとの飲食しながらの会合)→ 出張等の多い亡Kが社員らと意見交換などが十分なされていないことを補うため(Zが費用を負担して行っていた事実)→ 社員との会合も「大阪事務所長としての業務の延長である」と判断(接待などの終了時間)→ 証言に基づき、「少なくとも午後10時ころまでは行われてと推認」

<亡Kが行っていた接待>

顧客との良好な関係を築く手段として行われている。→ Zのその必要性から、その業務性を承認して亡Kの裁量に任せて行わせていた。

亡Kが前職当時から付き合いのある人脈を利用して営業の情報を収集 → 顧客とのコミュニケーションをとることによって問題解決に当たっていた。

Cとの間で、会議では議題にしにくい個別の技術的な問題点をより具体的に議論する場であった。

Cにとって、技術的に詳しい亡Kから本音で込み入った技術的な話を聞く場として会合が位置付けられていた。

酒を飲めない亡Kは会食や接待が苦手 → 業務の必要があると判断して会合に参加

接待などに使う飲食費用はZが負担(しかし)→ 亡Kが使用できた接待費の月額枠20万円に収まらないほどの接待

会合は週に5回くらい(平成17年の9か月間)→ 亡KからZに対して請求のあった交際関係のレシートは48回分 → 亡Kの死亡後にさらに52枚のレシートが発見 → ZはXに対して200万円を超える金員を交際費として精算

(ii) 出張時における公共交通機関の使用を含めた移動時間 :「通常、その時間を如何に過ごすか、労働者の事由に任されている」もの(亡Kについて)→ 具体的に何らかの業務に従事していたのかを認めることが出来ない。→ 出張に伴う移動時間は、業務それ自体とは関連性がある。→ 一定の時間的拘束を含めた負荷が伴うもの(当該業務の過重性を検討すべき際)→ その考慮の要因の一つとして考えるべきではある。(しかし)→ それ自体を労働時間そのものとして認定することはできないといわざるを得ない。

(iii) 休息時間帯におけるトラブルなどへの対応 :正確な時間を算定することは困難 → 業務の過重性を判断するに当たっては、十分に考慮する必要がある。(休日出勤)→ これを認めるに足りる証拠はない。

③ 亡Kの時間外労働数 :次の通り → 亡Kの業務が量的に過重であったことは明らか(認定基準に沿って考えた場合)→ 亡Kの業務と本件疾病発症ないし同人の死亡との間には強い関連性
発症前1か月 73時間
発症前2か月 69時間
発症前3か月 約81時間
発症前4か月 約78時間
発症前5か月 約63時間
発症前6か月 約76時間

④ 質的過重性 :(亡Kの業務の質的過重性)→ 亡Kは寝ることが出来ず対応に追われる場合には睡眠時間が奪われる。→ 就寝中の電話やメールによって中途覚醒を強いられ、その後満足な睡眠をとれなくなったり、少なくとも睡眠の質が悪化していたことが推認 → 24時間オンコール体制下に置いて不規則な勤務状態にあったと評価するのが相当(出張における質的過重性)→ 亡Kの出張回数は著しく多いとまでは言えない者の同出張による精神的な負荷は大きかった。

<亡Kの業務の質的過重性>

(ア) 24時間携帯電話の電源をオンにすることが求められている。→ 24時間いつでも対応しなければならない状態に置かれていた。(重大障害が発生した際)→ 実際に出動して対応に当たっている。
(イ) 亡Kは、単身赴任先である大阪での住居を顧客であるCのネットワークセンターに比較的近いところを選んでいた。

<出張における質的過重性>

(ウ) 出張については、亡Kは社内において事務に従事していた。(出張先での会議終了後)→ 飲食を伴う接待を行っていた。(出張先での会議)→ Cからの厳しい注文などを受けていた。

⑤ リスクファクター :喫煙習慣(1日20本程度)、飲酒(ビール1本程度を週に3日以上)、くも膜下出血の好発年齢(56歳)といった事情 → 亡Kの業務は量的にも質的にも過重であったと認められる。→ 亡Kは高血圧ではないこと、飲酒量・喫煙量ともに著しく多量であるとはいえない。
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