fc2ブログ

心理的負荷に起因する解雇の有効性

平成24年9月17日、セミナー資料の作成などで、バタバタしており、更新が遅れておりました。このブログを見られている方には、大変申し訳ございません。

今回の判例は、精神疾患による損害賠償と解雇が連動した有意義な判例です。

どこまでが有効で、どこまでが賠償請求されるのかを見分ける材料になると思いました。




(事件概要)Y社は、建設コンサルタントの業務(平成13年4月1日)→ Xは、Yに入社後、B次長の班で勤務(平成14年12月27日)→ Xは14年の長時間勤務者として、大阪支社の健康管理室のC看護師の面談を受ける。→ それ以降本件解雇まで、月数回ないし10回程度の頻度でCのカウンセリングを受ける。(15年2月26日)→ E1診療所のE医師により身体表現性障害と診断(同年3月19日)→ Eにより、身体表現性障害のため1か月間の休養を要すると診断(1,2回目の在宅期間)→ 平成16年5月6日、大阪支社河川部に復帰した後、班には所属せず、K部長付として勤務(3回目の在宅期間)→ 平成17年12月1日、同月8日付でXを解雇する旨の通知を発送 → 同月2日にこれがXに到達(同年12月8日以降)→ 本件解雇により労働契約が解消されたものとして給料を支払っていない。(訴え)→ 精神疾患は、Yの注意義務違反又は安全配慮義務違反 → 長時間労働などの過重労働に従事するなどしたために発症 → 本件解雇は無効であって上記各義務違反によるもの → Yに対して(イ)から(ニ)
(イ) XがYとの間で労働契約上の地位にあることの確認
(ロ) 17年8月以降の未払い賃金などの支払い
(ハ) 民法415条又は709条に基づき本件発症による慰謝料など
(ニ) 16年5月から同年12月までの毎月の未払い超過勤務手当などを求めた。
<民法>
 415条(債務不履行による損害賠償) :債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 709条(不法行為による損害賠償) :故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
<在宅期間>
1回目 平成15年4月2日から同月30日まで出勤せず、自宅で過ごした。(同年4月23日)→ Eにより身体表現性障害につきほぼ寛解状態(同年5月2日以降)→ 就労は可能であると診断(同年5月2日)→ 大阪支社河川部に復帰し、同月末からH次長の班で勤務
2回目 平成15年12月1日から16年5月5日まで出勤せず、自宅で過ごした。(15年12月2日)→ Eにより、抑うつ状態のため、2週間の休養を要すると診断(同月17日)→ Eにより抑うつ状態につき、今後の就労は可能と考えると診断 → Yは、統括産業医であるIの意見等を踏まえて、Xに自宅療養を続けるよう指示(平成16年1月7日)→ Eにより抑うつ状態につき、ほぼ寛解状態(同月13日以降)→ 就労は可能と考えると診断(しかし)→ Xは、東京でIの診察を受け、Iから、医学的観点からは復職が可能であるが、XとYとの間で雇用上の問題が解決するまでは復職を許可できないとの意見が述べられる。→ Yは、これを受けてXに自宅療養を続けるよう指示(平成16年2月から3月)→ J大阪支社長らY側と面談 → 最終的に職場復帰することに合意
 寛解 :病気の症状が、 一時的あるいは継続的に軽減した状態。または見かけ上消滅した状態
3回目 平成17年4月25日から出社しなくなり、それ以降本件解雇まで出社しなかった。(同年6月17日)→ L医師により、睡眠障害のため、1か月間の通院加療を要すると診断(同年9月21日)→ Iの診察を受け、同月24日、就労は可能であると診断(精神症状の推移)→ 17年7月22日以降は正当な理由なく欠勤(同年8月分以降)→ 給料を支払わず
 精神症状の推移 :平成16年1月7日にEにより、抑うつ状態につきほぼ寛解状態と診断(その後)→ 特段の精神症状を訴えておらず、遅く寝て遅く起きるという乱れた生活リズム → 定時に出勤することが出来ない状態となっていたことは認められるもの(実際に診察した4人の医師(E,A1,L及びI))→ いずれもこれを精神疾患又は心身症による症状と認めていない。(3回目の在宅期間)→ Xの訴えに基づいてそのように診断したもの → 少なくとも同医師の専門領域である心身症の病状を表していない。→ X自身もこれを病的なものとは述べていなかった。(Xの精神疾患)→ 平成16年1月7日ころには寛解状態にあり、それから相当期間が経過した時期すなわち遅くとも平成17年に入ったころには感知していたものと認められる。
1 在社時間と労働時間 :「在社時間」とは、出勤時刻から退社時刻までの時間から休憩時間1時間を除いた時間(労働時間)→ 班長および部長が承認し、平日定時労働時間、平日残業労働時間(平日午後5時から午後10時まで)および休日深夜労働時間(休日および平日午後10時から翌午前6時まで)の時間の合計 →「労働時間」より「在社時間」の方がかなり長くなっていた。
<心理的負荷の有無>
イ. 1回目の在宅期間前の期間 :「著しい長時間労働により強度の心理的負荷を受けていたもの」(職場の雰囲気)→ 長時間労働および深夜残業が恒常化して普通の事とされ、必要があっても休暇を取りにくい雰囲気があったもの(上司等との人間関係)→「特に著しい遅刻を重ねるようになった平成14年10月以降、その不満がそれぞれ強くなって関係が悪化 → 頻繁に叱責を受け、これにより継続的に強い心理的負荷を受けていたもの」(平成14年当時)→ 業務量も多く、「このことは、Xが長時間労働に従事していたことによっても裏付けられる。」
ロ. 2回目の在宅期間前の労働時間 :定時勤務・軽減勤務の条件の下で復帰したにもかかわらず(平成15年11月)→「月間の時間外労働が100時間を超える状態になったと認められる。→ これらの労働時間は、精神症状による自宅療養から職場に復帰していたXにとっては、強度の心理的負荷になったというべき」
ハ. 2回目の在宅期間以降(16年5月6日以降) :「長時間労働に従事していたとは認められ」ず、Y側から「窓際族」の状態にするという嫌がらせおよび見せしめを受けたという事も認められない。
2 精神疾患の有無 :平成14年12月11日頃、「やや抑うつ状態といえる自覚症状が生じており、遅くとも平成14年12月26日には精神疾患が発症したものと認められる」(平成15年4月23日)→「Xの精神疾患は、ほぼ寛解状態、(同年7月28日)→ 完全寛解の状態 → 月1ないし3回の受診および投薬治療は続けており、完治には至っていなかった。(同年12月1日)→ 再び発症したものといえる」(精神症状の推移)→ 平成17年に入ったころには完治していたものと認められる。
<精神疾患の業務起因性の有無>
イ. 1回目の在宅期間にかかるXの精神疾患 :過重性を有する業務に従事したことなどと、精神疾患の発症との間には、相当因果関係が認められる。
ロ. 2回目の在宅期間にかかる精神疾患 :職場に復帰した直後であり、勤務時間の制限がされていたのに、十分に勤務上の配慮がされなかった。→ 過重性を有する業務に従事したことなどと、精神疾患の再燃との間には、相当因果関係が認められる。
3 注意義務違反ないし安全配慮義務違反の有無 :(労働安全衛生法65条の3)Xの上司らは、「Xが著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識 → その負担を軽減されるための措置を取らなかったことについて過失がある。→ Yは不法行為上の注意義務違反又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づく責任を負うものというべき」
 労働安全衛生法65条の3(作業の管理) :事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。
4 本件解雇の有効性 :労働者が定められた場所で勤務をすることは、最も基本的な債務というべき → Yから出勤するように求められたのに、約4か月半にわたり出勤しない。→ 正当な理由があったとは認められない。→ Yの就業規則所定の解雇事由に該当(精神症状の推移)→ 平成17年1月頃には、完治していたものと認められる。→ 労基法19条1項に違反するということは出来ない。(3回目の在宅期間)→ 欠勤状態と扱われている旨を伝えた上、出勤するか、休養の必要性を認める診断書を提出するかのいずれかをするように、繰り返し求めている。(これに応じないXに対し)→ Yの労働組合に通知した上で退職勧告書を送付 → 本件解雇 → 適正な手続きを踏んでおり、社会通念上相当であると認められるから、解雇権濫用に当たるということは出来ない。
 債務 :"返済しなければならない"という義務、責任のことです。簡単に言えば、お金を借りていること
 労基法19条1項(解雇制限) :使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
5 未払賃金の有無 :17年7月21日以前は、在宅期間中、休暇の分も含めて全額支払った。(17年7月22日から解雇まで、解雇以降)→ 正当な理由なく解雇も有効であり、未払賃金請求権を有するものとは認められない。
6 精神疾患の発症に関する慰謝料の額 :著しい長時間労働に従事(入社2年目)→ 精神疾患を発症(平成15年4月に1か月間、同年12月から)→ 各自宅療養を余儀なくされたほか、その後の会社員としての人生に非常に大きな影響を受けたことを考慮 → 慰謝料は400万円をもって相当と認められる。
7 不法行為に基づく慰謝料請求権の消滅時効 :平成16年3月12日以降(2回目の在宅期間以降)は注意義務違反に当たる行為があったとは認められない。(平成16年1月7日)→ 寛解し、それ以降症状は徐々に軽快こそすれ悪化したとは認められない。→ 平成16年3月12日より前の時点で、損害の発生を現実に認識 → Yに対するその賠償請求が事実上可能 → 不法行為に基づく損害賠償請求権については、既に消滅時効が完成(債務不履行)→ 時効により消滅していない。
 不法行為の時効 :故意又は過失により他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した場合をいいます → 損害及び加害者を知ってから3年
 債務不履行の時効 :債務者が債務の本旨に従った履行をしないか又は出来なくなり、それについて債務者に帰責事由(故意・過失)があり、かつ不履行が違法である(債務者に同時履行の抗弁権や留置権などの正当事由がない)場合をいいます → 債権成立の時から10年
8 本件解雇に関するYの注意義務違反又は安全配慮義務違反の有無及び慰謝料の額:本件解雇に至るYのXに対する対応に注意義務違反又は安全配慮義務違反があるとはいえない。
9 未払超過勤務手当の有無 :平成16年5月ないし12月に、所定の労働時間を超えて、Yの指揮命令下に労務を提供していたものと認めることは出来ない。
10 超過勤務手当の消滅時効の成否 :判断する必要がない。
スポンサーサイト



プロフィール

roumutaka

Author:roumutaka
毎日、2時間以上の勉強を欠かさず、一歩ずつでも前進致します。
顧問先様への新しい情報の発信及び、提案の努力を怠りません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる