うつ病発症・自殺に対する安全配慮義務違反
(重要文言)
<使用者及び式監督者が回避する必要性>
健康状態が何らかの精神疾患を生じる程度に悪化していること
現に認識していなかったとしても、就労環境に照らしてその恐れがあることを具体的かつ客観的に認識し得た場合、
結果の予見可能性が認められるものと解するのが相当
<予見可能性>
労働者が置かれている就労環境やそれによる付加と相まって、何らかの精神疾患を生ずる恐れがあることを具体的かつ客観的に認識し得た場合に認められると解するのが相当
<適正管理義務>
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、
労働者の労働時間、勤務状況などを把握して労働者にとって長時間又は過酷な労働とならないよう配慮するのみならず、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負い、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う式監督者も使用者が王道義務の内容に従ってその権限を行使すべき
本件) 医師らの時間外勤務時間の把握自体が不十分
Kの本件疾病などを防止し得る処置をとっていなかった。
Y1組合には適正管理義務違反による債務不履行責任が認められる。
Y3及び、Y2の不法行為に係わる使用者責任もまた認められる。
<過失相殺>
精神疾患の専門医でもないY3、Y2が、Kの能力、性格、業務に対する姿勢及び体調の変化を適時に正確に把握し、即座に対応するのが困難な状況であったことは否めない。
Kは、医師として、本件疾病発症までにその発症可能性を軽減する行動を自らとっていない。
損害の公平な分担の観点から、損害額を2割減じるのが相当
(重要条文)
国賠法1条(公務員の不法行為と賠償責任、求償権)
1項 :国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
Y1組合、Y2、Y3及び、Kの間の雇用関係ないし上下関係又は医師としての業務上の協働関係について、公共団体運営ではない民営病院におけるそれと異なる点を見出すことはできず、Yらの行為はいずれも純粋なる私的社会経済作用として、「公権力の行使」に当たるとはいえない。
(事件概要)
平成17年4月 医師免許を取得
19年10月1日 F大学より本件病院に派遣
12月10日午前零時頃 自殺
平成20年11月12日付 地方公務員災害補償基金に対し、公務災害の認定を求める請求
22年8月24日付 公務災害に当たると認定
23年1月28日付 遺族補償一時金、遺族特別支給金等を受領
2月25日付 葬祭補償を受領
(訴え)
自殺したKの両親であるX1及び、X2が、過重労働や上司らのパワーハラスメントにより、うつ病エピソードを発症し、自殺に至ったとして、Y1組合及び、上司であったY2とY3に対し、債務不履行または不法行為に基づき、
① 死亡慰謝料などの損害元金 :8,861万4,158円
② 確定遅延損害金 :1,664万1,972円
③ 遅延損害金
の各支払いを求めた。
(判決)
時間外勤務について、
自殺前4週間 :合計174時間44分
5週間ないし8週間 :合計208時間48分
Kの同時間は、一般に、それ自体で心身の極度の疲弊、消耗を来たし、うつ病などの原因となる場合に相応する労働時間と評価し得る。
<損害額>
死亡慰謝料 :2,500万円
死亡逸失利益 :基礎収入額×(1-生活費控除率)×ライプニッツ係数
=1億1,016万8,172円
基礎収入額 :平成19年賃金サンセス、企業規模計、全年齢男子、医師の金額である年1,147万3,700円の収入を得られたとするのが相当
ライプニッツ係数 :死亡時34歳であり、67歳までの33年間就労可能であった
葬祭料 :150万円
過失相殺 :(死亡慰謝料+死亡逸失利益+葬祭料)×(1-0.2)
X1 :5,466万7,268円
X2 :5,466万7,268円
<損益相殺>
平成23年1月28日付で遺族補償一時金3,497万5,000円
同年2月25日付で葬祭補償209万8,500円
死亡逸失利益及び葬祭料について損害の補填がなされたものと認められるから、3,647万5,000円 (3,497万5,000円+150万円)の限度でYらは損害賠償義務を免れる。
X1 :5,466万7,268円-3,647万5,000円=1,819万2,268円
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