(感想)
発症前6か月の時間外労働以外で、直前の短期間の間における時間外労働と内容により業務起因性を認めた例としては参考になる。
過失相殺否定に関しても、今後の対策として参考になる。
(重要文言)
労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の疾病等について行われるもの(同法7条1項1号)
労働者の発症した疾病を業務上のものと認めるためには、業務と疾病との間に相当因果関係が認められることが必要である
労災保険制度が、労働基準法上の危険責任尾法理に基づく使用者の労災補償責任を担保する制度である
上記の相当因果関係を認めるためには、当該疾病などの結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要
本件疾病発症日を基準として1か月ごとに区分した場合における当該1か月間の時間外労働時間数は多い月で60時間弱
本件疾病発症前2か月間から6か月間までの範囲で1か月当たりの平均時間外労働時間数を見た場合、いずれも40時間前後にとどまっており
新認定基準(平13.12.12基発1063号)の枠組みの下でXの時間外労働時間数を捉える限り、Xの本件疾病発症前に従事していた業務が量的に過重であったとはいえない。
本件疾病発症前2か月前後の時期に、1か月未満の期間における時間外労働時間が100時間を超える状況もあったこと
本件ブラジル出張はそれ自体の負担が非常に大きい
Xに継続的な睡眠不足をもたらし、これが3度にわたり繰り返されたことにより、疲労が蓄積し、その回復・解消に至らないなど相当に負担の大きい就労状況であった
本件プロジェクトの内容やそこでのXの地位・役割などといった点も考慮に入れると、Xには、業務による過重な肉体的、精神的負荷がかかったものといえ
業務と本件疾病の発症との間に相当因果関係の存在を肯定できる。
<過失相殺の否定>
帰国後、本件疾病の発症までの間に、9日間連続して休暇を取ったこと及び勤務があった7日間を見ても、時間外労働はほとんどない
これまでの業務と発症との間に認められる強い関連性を否定・減殺する事情としては十分でない。
Xがブラジル出張の際にビジネスクラスまたはファーストクラスの座席に搭乗していた事実
業務と発症との間の強い関連性を否定・減殺する事情であるとは言い難い。
(訴え)
平成19年5月12日に脳梗塞を発症したのは業務に起因するものであるとして、中央労働監督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の請求
21年11月20日にこれらを支給しない旨の処分を受けたため、本件各処分の取消を求めた。
(判決)
Xの発症した本件疾病の業務起因性を認め、Xの請求を認容
(感想)
個人情報の漏洩については、利用目的が制限されており、これに違反した場合には損害賠償を求められる可能性が高い。また、従業員の労働の権利を妨げるには、相応の合理的理由がある。
(重要文言)
法23条1項の「第三者」に当たるか否かは外形的に判断されるべきであって、ある情報を保有する個人情報取扱事業者(法2条3項)および当該情報の主体である本人(同条6項)以外の者を意味するというべきであり、本件情報共有は第三者提供には該当しない
本件情報共有は、Y会の非常勤医師であるF医師から順次Y会内部の医師、看護師および事務長に情報提供されたものであり、同一事業者内における情報提供というべきである
第三者に対する情報適用には該当せずと判示
本件情報共有は、院内感染の防止を目的として、Xの就労に関する方針を話し合うためであった
診療目的の範囲には含まれず、労務管理の目的であったと認められ、法16条1項が禁ずる目的外利用に当たる。
(利用目的による制限)
第十六条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
2 個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。
3 前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
HIV感染症に罹患しているという情報は、他人に知られたくない個人情報であり、本件情報を本人の同意を得ないまま法に違反して取り扱った場合には、特段の事情のない限り、プライバシー侵害の不法行為が成立する。
被用者が労働契約に基づいて働き賃金を得ることは義務であるとともに権利である。
これを不当に制限することは許されず、病欠等被用者の都合により勤務を休む場合には、賃金の減少といった不利益をももたらす。
被用者が病欠として勤務を休むことについては、病気により勤務に耐えられる状況にないなど勤務を休まざるを得ないような合理的理由があるか、その自由な意思に基づくものでなければならず、雇用者が合理的理由なく、被用者に対して勤務を休むように指示するなどして勤務を休むことを強いることは不法行為になる。
(事件概要)
Xは、自分が梅毒とHIVに重複感染していることを知ったが、これまでの知識経験に基づき、標準的な感染対策を行えば患者に感染させるリスクはないと判断し、今後も本件病院に感染の事実を報告せずそのまま看護業務を継続しようと考え、実際に翌日以降も出勤
Xの同月23日以降の欠勤については、少なくとも事後的には病欠として扱われていたところ、Xは、同年11月30日付でY会に退職届を提出し退職
Xが退職届を本件病院に持参したとき、職員は、別の部署での仕事もあると慰留したが、Xは、本件病院内で情報が知れ渡っているのではないかと恐れ、断念
(訴え)
Y会が経営するB病院の看護師であり、HIV陽性と診断されたXが
① 同病院の意思から上記情報を取得した本件病院の医師及び職員がXの同意なく本件病院の他の職員らに伝達した情報を共有したことが個人情報の保護に関する法律23条1項及び16条1項に反し、Xのプライバシーを侵害する不法行為
② その後に本件病院が行ったXとの面談においてHIV感染を理由にXの就労を制限したことがXの働く権利を侵害する不法行為
使用者であるY会に対し、民法715条に基づき、損害賠償として1,017万1,371円及び本件情報共有開始の日である平成23年8月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。
(感想)
うつ病に対して、使用者の安全配慮義務がどの程度必要であるかを考える一つの指標になると思われる。
休業補償については、支給決定の受けられる可能性が高くても、やはり支給決定を受けていないものについては、損害賠償額からの控除されることはなかったことが再認識できる。
(重要文言)
XがYに申告しなかった自らのメンタルヘルスに関する情報は、神経科の医院への通院、その診断にかかる病名、神経症に適応のある薬剤の処方などを内容とするもの
自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課などに影響し得ることがあらとして通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報
使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康にかかわる労働環境などに十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている
労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、メンタルヘルスに関する情報については労働者本人からの積極的な申告を期待し難いことを前提としたうえで、必要に応じてその業務を軽減するなどの労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある
本件傷病手当金等は、業務外の事由による疾病などに関する保険給付として支給されるもの
X保有分は不当利得として健康保険組合に返還されるべきもの
損害賠償の額から控除することはできない
いまだ支給決定を受けていない休業補償給付の額についても、これを控除することはできない。
(事件概要)
平成13年3月15日および4月24日 時間外超過者健康診断を受診
Yの産業医は、特段の就労制限を要しないと判断
平成13年5月23日 激しい頭痛に見舞われ
同年6月1日 療養のため連続して欠勤
同月7日 時間外超過者健康診断の際、頭痛、めまい、不眠などについて申告
同月下旬 課長に対し体調不良のため業務を断ろうとしたが、了承を得ることはできなかった
同年7月28日から8月6日 有給休暇などを利用して療養
同年9月 休暇を取得
同年10月9日以降 診断書を提出した上で、欠勤を開始
平成13年10月以降 Yからの賃金の支払いを受けていないが、傷病手当金等の支給を受けている。
平成15年1月10日 休職を発令し、定期的な面談などを続けた
16年8月6日 職場復帰をしなかったため、9月9日付で解雇の意思表示
16年9月8日 労基署に対し、休業補償給付支給請求
18年1月23日 うつ病が業務上の事由によるものであるとは認められないことを理由として、支給しない旨処分
(訴え)
うつ病に罹患して休職し休職期間満了後に解雇されたXが、うつ病は過重な業務に起因するものであって解雇は違法、無効であるとして、Y社に対し、安全配慮義務違反等による債務不履行または不法行為に基づく休業損害や慰謝料等の損害賠償、Yの規程に基づく見舞金の支払い、未払い賃金の支払い等を求めた。
(重要文言)
住宅手当は、1万円ないし5万円の範囲で支給すると定められているものの、これが従業員の住宅に要する費用に応じて支払われているとは認められない。
(事件概要)
営業手当は時間外労働割増賃金で月30時間相当分として支給
Xの賃金は、基本給22万円のほか、住宅手当、営業手当、通勤費などを含んでいる。
21年6月16日ないし22年12月18日の間、1か月当たり合計51万5,910円ないし66万5,910円が支給
Xの業務は、アルバイトスタッフのシフト管理のほか、アルバイトスタッフの見込み顧客の管理、営業担当者への引継ぎ、アルバイトスタッフの指導等
毎週月曜日及び木曜日の午前9時から行われるマネージャー会議に出席
(訴え)
労働契約に基づき、平成22年11月から同年12月までの未払賃金合計73万4,619円ならびに21年7月分から23年1月分までの割増賃金合計901万7,927円の支払いを求める。
労基法114条に基づき付加金926マン7,846円の支払い等を求めた。
(判決)
営業手当を月30時間分の時間外労働に対する手当として支給し、受給する旨の合意がXとYとの間で成立していたとは認めがたい。
Yが主張するように、テレホンアポイント部の運営を自身の裁量を行う事が出来たとまで認めることはできない。
タイムカードによる管理を受けており、Xの職責及び責任の重症性の程度並びに勤務実態が、労働基準法による労働時間規制に馴染まないという事ではなく、むしろ、土曜日についてはYが午後8時までの勤務を支持していたこととあいまって、労働時間を事由に定めることができないことを推認させる事実というべき
Yが営業手当や住宅手当、営業実績に応じた実行手当の支給を継続してきており労基法違反を犯す意思はなかったとのYの主張に対し、それによって、従業員の時間管理を十分に行っていなかったことが正当化されるものではない。