労働者死亡に対する既往症と業務起因性の関係
平成24年5月17日、本日は、就業規則の作成に携わることとなりました業者へお伺いさせて頂きました。
余りにも、きっちりと時間外労働に対しても、退職金に対しても支払われており、脱帽した次第です。
また、今後の景気の悪化を考えて、先を読み就業規則を見直そうと考えられた事業主様を尊敬いたします。
ただ、余りにもキッチリとされすぎているため、何をするにも労働者にとって不利益変更となってしまうのが一番の問題であり、こちらとしても頭を悩まさないといけないと思いました。
さて、今回の判例は、労災保険の適用の有無について記載されております。記事の内容を見て、まず認められるだろうと考えていましたが、案の定労災認定されております。
時間外労働を80時間未満であるにもかかわらず、業務外での労働に起因する時間を含められている事については、今後の対策としては考慮すべき個所であると思いました。
(事件概要)
一郎(当時39歳、Z社の管理職員であり、労働時間の管理は受けていなかった。)は平成13年10月12日午前4時頃、心停止を発症して死亡 → 原告X(一郎の母)は、業務上の事由に起因するものであるとして、Y労基署長に対して労災保険法に基づく遺族補償給付の支給を求めた。(平成19年1月16日)→ Yは、本件不支給決定を行った。→ Xは、労災補償保険審査官並びに労働保険審査会に行政不服申し立てを行った。→ いずれも棄却 → 不支給決定の取り消しを求めた。
業務起因性 :当該疾病などの結果発生と業務などとの間に条件関係があるだけではなく、当該疾病などが業務などに内在又は随伴する危険が原因となって発生したという相当因果関係があることが必要(発症原因)→ 心停止の原因として挙げられる基礎疾患のうち、冠状動脈疾患であるとした。(剖検の結果)→ 冠状動脈狭窄度は10%程度(死亡発見時の状況)→ 既往の虚血性心疾患が本件疾病の原因となる基礎疾患として存在していたとも考え難い。(他方)→ 軽度の冠状動脈疾患が進行していたと認められる。→ 冠状動脈疾患が本件疾病の原因となるべき基礎疾患を構成していた可能性が高いと判断
心疾患における業務起因性の有無 :医学的知見を基礎(労働者が従事した業務)→ 客観的に見て、社会通念上、「基礎疾患としての冠状動脈病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、当該心臓疾患の発症に至らせるほどの過重負荷を与えたものと評価できるか否か」という観点より判断
(考察)
業務の過重性 :過労すなわち睡眠時間の減少に直結する時間外労働の時間数を第一次的要素 → 勤務の不規則性、高速性、交代制勤務、作業環境などの諸要因や、業務に由来する精神的緊張の諸要素を総合考慮 → その有無・程度を判断する必要(判決)→ Zにおける一郎の業務は、同人の基礎疾患をその自然的経過を超えて著しく増悪させ得る程度の精神的・肉体的負荷のある過重な業務であった。→ 相当因果関係を肯定する判断に至った。
イ) 量的過重性(労働時間) :当該労働者の疾病が、業務などに伴う危険の現実化として発生したものであることが必要(危険責任の法理)→ 労働契約に基づき使用者の支配または管理下にあることに伴って発生するリスク(業務起因性の第一次的判断要素としての「労働時間」)→「就労のため使用者の指揮命令下にある時間帯」をいうものと解するのが相当(就労状況について検討)→ 労働時間の管理はされていなかったため、<a>から<c>の認定資料を用いる。→ <a>を基本と位置付けながらも、<a>は事後的な報告に留まる面があるから、逐次時刻を確認されながら記載された<b>の方が証拠としての価値が高い。(休憩時間)→ 一般の労働日については、1時間が確保 → 拘束時間から控除 → 休日出勤も同様(認定された時間外労働時間)→ 発症1か月前-約51時間、2か月前-51時間、3か月前-34時間、4か月前-68時間、5か月前-108時間、6か月前-46時間 → 6か月平均は59時間42分(関連性の検証)→ 1か月あたり45時間を超える時間外労働を行っていた事実は認められる。(しかし)→ 業務と発症との間に強い関連性が肯定される1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働を行っていたものとは言い難い。(労働時間とは認められない時間帯)→ 業務との関連性においては濃淡があり得る。(以下①から④)→ 日常業務における負荷を増大させる要因 → 不規則な勤務ないし拘束時間の長い業務に準じて、業務起因性を検討するための一要素として考慮されるべき
フレックスタイム勤務予定・勤務状況報告書
ビルの退館台帳の記録(終業時刻が午後10時以降に及ぶ時と、休日出勤の場合)
旅費・交通費などの精算書
① 一郎はZの管理職 → 休日に自宅などにおいて業務の一部を行う時間があったことが推測
② 会議や講演会の後の懇親会などを設定 → 出席することもあった。
③ 終業時刻は深夜の時間帯に及びことが稼働日数の3分の1程度 → 3時間を超える深夜勤務は月に一回程度 あったことが認められる。
④ 臨床開発を2つ兼任 → 厳しいスケジュール管理のもとでの業務遂行を求められる。(死亡当日)→ 会議 における発表が予定
⑤ 死亡直前の3日間の実労働時間は42時間(1日平均14時間)を超える労働に従事 → その密度も濃いもの
⑥ 発症4から6日前の3日間は連続して休日(しかし)→ パソコン履歴では、4日前には深夜午前2時45分頃ま で会議資料を作成した記録 → 休日において十分な休養をとっていたかについては疑問を挟む余地
ロ) 既往症 :既往の心筋虚血はみられないものの、冠状動脈疾患が進行していたと認められる。→ 冠状動脈疾患が本件疾病の原因となるべき基礎史観を構成していた可能性が高い。(しかし)→ 軽度のものに留まる。(本件発症の直前)→ その自然の経過により心停止を引き起こす寸前にまで増悪していたとはいえないことは明らか(健康診断)→ 発症因子が存在したことを推認させたるものはない。(基本疾患として有していた軽度の冠状動脈疾患の増悪)→ いつ心停止の状態に至ってもおかしくない状態にあったものとは認められない。
余りにも、きっちりと時間外労働に対しても、退職金に対しても支払われており、脱帽した次第です。
また、今後の景気の悪化を考えて、先を読み就業規則を見直そうと考えられた事業主様を尊敬いたします。
ただ、余りにもキッチリとされすぎているため、何をするにも労働者にとって不利益変更となってしまうのが一番の問題であり、こちらとしても頭を悩まさないといけないと思いました。
さて、今回の判例は、労災保険の適用の有無について記載されております。記事の内容を見て、まず認められるだろうと考えていましたが、案の定労災認定されております。
時間外労働を80時間未満であるにもかかわらず、業務外での労働に起因する時間を含められている事については、今後の対策としては考慮すべき個所であると思いました。
(事件概要)
一郎(当時39歳、Z社の管理職員であり、労働時間の管理は受けていなかった。)は平成13年10月12日午前4時頃、心停止を発症して死亡 → 原告X(一郎の母)は、業務上の事由に起因するものであるとして、Y労基署長に対して労災保険法に基づく遺族補償給付の支給を求めた。(平成19年1月16日)→ Yは、本件不支給決定を行った。→ Xは、労災補償保険審査官並びに労働保険審査会に行政不服申し立てを行った。→ いずれも棄却 → 不支給決定の取り消しを求めた。
業務起因性 :当該疾病などの結果発生と業務などとの間に条件関係があるだけではなく、当該疾病などが業務などに内在又は随伴する危険が原因となって発生したという相当因果関係があることが必要(発症原因)→ 心停止の原因として挙げられる基礎疾患のうち、冠状動脈疾患であるとした。(剖検の結果)→ 冠状動脈狭窄度は10%程度(死亡発見時の状況)→ 既往の虚血性心疾患が本件疾病の原因となる基礎疾患として存在していたとも考え難い。(他方)→ 軽度の冠状動脈疾患が進行していたと認められる。→ 冠状動脈疾患が本件疾病の原因となるべき基礎疾患を構成していた可能性が高いと判断
心疾患における業務起因性の有無 :医学的知見を基礎(労働者が従事した業務)→ 客観的に見て、社会通念上、「基礎疾患としての冠状動脈病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、当該心臓疾患の発症に至らせるほどの過重負荷を与えたものと評価できるか否か」という観点より判断
(考察)
業務の過重性 :過労すなわち睡眠時間の減少に直結する時間外労働の時間数を第一次的要素 → 勤務の不規則性、高速性、交代制勤務、作業環境などの諸要因や、業務に由来する精神的緊張の諸要素を総合考慮 → その有無・程度を判断する必要(判決)→ Zにおける一郎の業務は、同人の基礎疾患をその自然的経過を超えて著しく増悪させ得る程度の精神的・肉体的負荷のある過重な業務であった。→ 相当因果関係を肯定する判断に至った。
イ) 量的過重性(労働時間) :当該労働者の疾病が、業務などに伴う危険の現実化として発生したものであることが必要(危険責任の法理)→ 労働契約に基づき使用者の支配または管理下にあることに伴って発生するリスク(業務起因性の第一次的判断要素としての「労働時間」)→「就労のため使用者の指揮命令下にある時間帯」をいうものと解するのが相当(就労状況について検討)→ 労働時間の管理はされていなかったため、<a>から<c>の認定資料を用いる。→ <a>を基本と位置付けながらも、<a>は事後的な報告に留まる面があるから、逐次時刻を確認されながら記載された<b>の方が証拠としての価値が高い。(休憩時間)→ 一般の労働日については、1時間が確保 → 拘束時間から控除 → 休日出勤も同様(認定された時間外労働時間)→ 発症1か月前-約51時間、2か月前-51時間、3か月前-34時間、4か月前-68時間、5か月前-108時間、6か月前-46時間 → 6か月平均は59時間42分(関連性の検証)→ 1か月あたり45時間を超える時間外労働を行っていた事実は認められる。(しかし)→ 業務と発症との間に強い関連性が肯定される1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働を行っていたものとは言い難い。(労働時間とは認められない時間帯)→ 業務との関連性においては濃淡があり得る。(以下①から④)→ 日常業務における負荷を増大させる要因 → 不規則な勤務ないし拘束時間の長い業務に準じて、業務起因性を検討するための一要素として考慮されるべき
フレックスタイム勤務予定・勤務状況報告書
ビルの退館台帳の記録(終業時刻が午後10時以降に及ぶ時と、休日出勤の場合)
① 一郎はZの管理職 → 休日に自宅などにおいて業務の一部を行う時間があったことが推測
② 会議や講演会の後の懇親会などを設定 → 出席することもあった。
③ 終業時刻は深夜の時間帯に及びことが稼働日数の3分の1程度 → 3時間を超える深夜勤務は月に一回程度 あったことが認められる。
④ 臨床開発を2つ兼任 → 厳しいスケジュール管理のもとでの業務遂行を求められる。(死亡当日)→ 会議 における発表が予定
⑤ 死亡直前の3日間の実労働時間は42時間(1日平均14時間)を超える労働に従事 → その密度も濃いもの
⑥ 発症4から6日前の3日間は連続して休日(しかし)→ パソコン履歴では、4日前には深夜午前2時45分頃ま で会議資料を作成した記録 → 休日において十分な休養をとっていたかについては疑問を挟む余地
ロ) 既往症 :既往の心筋虚血はみられないものの、冠状動脈疾患が進行していたと認められる。→ 冠状動脈疾患が本件疾病の原因となるべき基礎史観を構成していた可能性が高い。(しかし)→ 軽度のものに留まる。(本件発症の直前)→ その自然の経過により心停止を引き起こす寸前にまで増悪していたとはいえないことは明らか(健康診断)→ 発症因子が存在したことを推認させたるものはない。(基本疾患として有していた軽度の冠状動脈疾患の増悪)→ いつ心停止の状態に至ってもおかしくない状態にあったものとは認められない。
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