内部告発に対する懲戒処分の有効性
(考察)
判断枠組みである次の文言が全てであると思います。
「仮に本件情報提供をしたのがXであったとして、その提供内容、すなわち本件告発内容を信じるにつき合理的な理由があったと認められる場合、本件情報提供は懲戒処分事由たる非違行為とすることは出来ない。」
(本文)
平成25年2月26日 Xは、当時Y1大学の理事長であったBに対し、
「岡山県立大学A学部入学実技試験採点結果改ざんについて」と題する本件告発書を提出
本件告発書
① 23年度入試の実技試験の採点では、上位得点者のデッサン1から2枚の得点を低く訂正するようにXに指示
② 24年度、採点責任者であったY4が、デッサンの得点を低く訂正するようXに指示
Yがこれに従わなかった。
本件内部告発を受けてY1大学では内部調査委員会を設置
平成25年3月18日 XおよびBへの取材が行われた。
1度採点していたデッサンの得点を低くなるように操作した疑いがある旨の報道
新たな調査委員会を設置
平成25年5月27日 23年度および24年度の入試において、実技試験の得点を変更する捜査が行われた事実はない旨の発表
平成25年5月30日 Xに対して、口頭で
① しばらくの間、授業をしないこと
② しばらくの間、学生の指導をしないこと
③ しばらくの間、教授会その他重要な会議に出席しない
しかしながら、翌31日、学生に対する授業・指導を行った。
Y2が議長を務めるY1大学教育研究審議会は、
本件内部告発の事実
E放送局に情報提供した行為が非違行為に該当
懲戒処分手続きを開始したことを書面で通知
平成25年9月13日 Xに対し停職3カ月とする懲戒処分。その理由とされた非違行為は、
① 23年度及び24年度入試において、実技試験の得点を低く変更する操作が行われたことはなかったのに、E放送局に本件情報提供をして、法人の名誉・信用を失墜させた。
② 24年度及び25年度の採点責任者による作品の並べ替えの終了宣言後にXが作品を移動したこと。
③ 授業禁止命令に従わず、Xが学生に対する指導を行ったこと
Y1大学の教授であるXが、停職3カ月の懲戒処分を受けた
① 本件停職処分は違法であるとして、無効の確認
② Y1大学に対し、
(ア) 停職期間中の給与等の支払い
(イ) 不法行為(民法709条)に基づく損害賠償金等
③ YらがXに対する授業の禁止等を内容とする命令が違法であること
及び、Y1大学の使用者責任を理由とする損害賠償金、慰謝料等
(判決)
情報提供行為
仮に本件情報提供をしたのがXであったとして、
その提供内容、すなわち本件告発内容を信じるにつき合理的な理由があったと認められる場合、
本件情報提供は懲戒処分事由たる非違行為とすることは出来ない。
Y4もしくは他の人物が、得点が低くなるよう移動する旨の提案をし、
Xが反対して口論となっていたとする2名の第三者による供述
この供述はXの供述内容と合致している。
少なくともXが目撃した事実は、Xの認識においてそのような得点操作が行われた事実を疑わしめるに足りるものであったと認められる。
試験の得点を低く変更する操作が行われたと信じるにつき正当な理由があった。
情報提供は違法性を有しない。
授業等禁止命令
本件情報提供が正当な行為と認められる以上は違法であるとして、懲戒事由として認められない
本件停職処分は違法であり、無効である。
未払給与等287万9,086円の支払いを命じた。
Y1大学の不法行為責任、Y2~Y4の不法行為責任ならびにY1大学の使用者責任
その調査の過程や評価において、予断や偏見等に基づく不公正な手続、判断がなされた事をうかがわせるような証拠ないし事情は認められない。
大学に故意は認められない。
大学の過失を認めることもできないとして、停職処分に関して不法行為責任は認められない。
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