固定残業の設定時間の妥当性
(考察)
この判例から思う事は、
始業前の作業について、仕事としての指揮命令がない事が重要
給与より親睦会費などを控除する場合には、必ず書面による協定が必要
固定残業として支給するとしても、月80時間を超えるようなものは、合意したとしても公序良俗に反し無効
(本文)
Y1はもともとY2の中にあった板金塗装部門の業務を引き継ぐことを目的として設立された株式会社
Y2のB1店を運営
Y2の代表取締役がY1の株式の全部を保有していた。
平成26年8月5日 XはY1に入社
Xが採用条件確認書に署名押印
<採用条件確認書>
旧賃金規定 → 平成27年11月1日改定 新賃金規定
基本給 → サービス手当を減額した差額の1万7,600円を加算
サービス手当、LD手当(時間外労働82時間相当分)→ 固定残業代(42時間分、サービス手当等を変更)、サービス手当を減額
マージン手当、月の工賃の合計が100万以上になった場合に5%を乗ずる → 歩合給(LD手当と共に基礎賃金に組み込んで計算)、月の工賃から値引き率を控除した額が150万以上になった場合に5%を乗ずる
親睦会費として毎月2,000円を控除
平成27年12月10日 Xは賃金の算定方法が変更された事について、労基署に相談
同月15日 Xに対し、同月16日付でB2店へ異動
同月17日 Xは、医師から適応障害、うつ状態との診断を受け、休職
平成28年1月31日 Y1を自主退職
Y1の従業員であったXが、
① 時間外労働などに対する未払い割増賃金
② 業務上の疾病により就労できなかった期間につき、民法536条2項に基づく同期間の賃金
民法536条2項(債務者の危険負担等) :債権者の責めに帰すべき事由によって、債務を履行することができないときは反対給付を受ける権利を失わない。
自己の債務を免れる事によって利益を得た時は債権者に償還しないといけない。
③ 未払いの歩合給
④ 給与から控除された親睦会費
⑤ 遅延損害金
⑥ 労基法114条に基づく未払賃金額と同額の付加金
労基法114条 :裁判所は解雇予告、時間外、深夜、休日、有給による賃金に違反した使用者対して、労働者の請求により未払賃金の他に同一額の付加金を命ずることができる。
違反から2年以内
⑦ Xが労基署に相談に行ったことへの報復的措置として異動命令を受けたことによる適応障害およびうつ病を発症
不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払い
⑧ Y2社との間でも労働契約を締結していたとして、労働契約又は法人格否認の法理に基づき、上記と同様の支払いを求めた。
法人格否認の法理 :法人格が形骸にすぎない場合、法人格が濫用される場合、紛争解決が必要な範囲で法人とその背後のものの分離を否定する法理
(判決)
始業前に朝礼の準備として工場内の車を移動する作業が労働時間に当たるとのXの主張に対し、
労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間
いずれかの社員に命じられていたものではなく、早く出勤したものが朝礼を円滑に開始できるように準備していた作業
任意に準備していた作業というべきであり、使用者の指揮命令下に置かれている時間と評価することは出来ない。
親睦会費につき、労基法24条1項は、賃金全額払いの原則を定めており、労働者が控除に同意していたとしても、労基法24条1項が定める書面による協定がなければ、控除は強行法規違反として違法無効
個々の労働者の同意を得ることなく賃金減額を実施し、それが就業規則上の規程に基づく場合、当該規定が、
減額事由、
減額方法、
減額幅などの点において、基準としての一定の明確性を有するものでなければ、個別の賃金減額となり得ない。
時間外労働82時間相当分としての固定残業の支給は、
長時間の時間外労働を恒常的に行わせることは、労基法32条及び36条などの趣旨に反することは明らか
恒常的な長時間労働を是認する趣旨でこれに対応する時間外割増賃金に充当する旨の手当の支払いに合意したとは認めがたい
仮にかかる合意をしたとしても、公序良俗に反し、無効
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