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くも膜下出血発症・死亡と業務起因性

平成24年6月1日、今日は本当に平和な一日でした。

何が平和かというと、本当に久々にすることがなく、早く帰ることが出来ました!

さて、今回の判例は、業務起因性に関するものです。労災保険で業務中と認められるかどうかの判断基準について、考察しております。

接待を労働時間に含むかどうかの判断が斬新であり、質的過重性、量的過重性についてもしっかりと判断されていると思われる判例でした。




(事件概要)

亡Kは平成13年にZ社に入社(ZがC社に納入した機器やソフトに関して不具合が発生した場合)→ Cからの連絡を亡Kが24時間受ける体制(重大な障害の場合)→ 亡KがCに出向くこともあった。(平成17年9月29日)→ 亡Kは大阪にある単身赴任先の住居から新幹線で東京の本社に出張 → Cとの会議に午前10時から午後4時30分頃まで出席(会議終了後)→ Cの社員らと共に居酒屋に赴いて会食 → 亡Kは脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(本件疾病)を発症(同年10月9日)→ 死亡(訴え)→ Xは、亡Kの本件疾病による死亡が業務上の事由によるもの → 労災保険法に基づき遺族補償年金及び葬祭料の請求(原処分長であるY労基署長)→ 本件疾病は業務上の事由に基づくものではないとして不支給決定 → 本件処分の取り消しを求める訴え → 亡Kの死亡が業務に起因するものであるか否かが主たる争点 → 亡Kの業務と本件疾病との間の相当因果関係を認める。→ 本件処分の取り消しを命じた。


(考察)

業務起因性 :労働者が発症した疾病などが「業務上」のものというためには、当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず → 両者の間に相当因果関係、すなわち業務起因性があることを要すると解するのが相当(基発第1063号)→ 本件当時は、携帯電話の移行時期 → 80%程度の完成度で市場に商品を投入(その後)→ 問題点に対処しながら100%に近づけていくというやり方 → 初期トラブルが多かった。→ 保全と営業を担当し、Cとの折衝をする立場にあった亡Kのトラブル対応の負担は重かった。(①から⑤を総合)→ 私的リスクファクターをもって、本件発症と業務との間の相当因果関係を妨げるに足りるものであるとは認められない。

① 基発第1063号 :厚生労働省による脳・心臓疾患にかかる認定基準 → 一応の合理性を有しているもの(元となった専門検討会報告書に示された医学的知見自体)→ 脳・心臓疾患の発症機序はいまだ十分解明されていない部分もある。(認定基準ないしそれ自体の判断枠組み)→ 裁判所の判断を拘束するものではない。

② 自己申告制 :出退勤管理が採られていたうえ、管理職であったために正確な出退勤時刻が明らかではない。(労働時間)→ おおむね午前8時45分頃から業務を開始し、昼には約30分の休憩時間をとり、おおむね午後8時ないし午後10時ころまで仕事をしていた。(午前8時以前に大阪事務所を出る場合)→ Cや関連会社の役員などと飲酒を伴う接待に赴いたり、大阪事務所社員との懇親会に出席したりしていたことも認めている。

(i) 接待 :一般的には、業務との関連性が不明であることが多く、直ちに業務性を肯定することは困難(亡Kが行っていた接待)→ 事実を踏まえると、亡KがC等を交えて行っていた飲食は「そのほとんどの部分が業務の延長であった」と判断(大阪事務所の社員らとの飲食しながらの会合)→ 出張等の多い亡Kが社員らと意見交換などが十分なされていないことを補うため(Zが費用を負担して行っていた事実)→ 社員との会合も「大阪事務所長としての業務の延長である」と判断(接待などの終了時間)→ 証言に基づき、「少なくとも午後10時ころまでは行われてと推認」

<亡Kが行っていた接待>

顧客との良好な関係を築く手段として行われている。→ Zのその必要性から、その業務性を承認して亡Kの裁量に任せて行わせていた。

亡Kが前職当時から付き合いのある人脈を利用して営業の情報を収集 → 顧客とのコミュニケーションをとることによって問題解決に当たっていた。

Cとの間で、会議では議題にしにくい個別の技術的な問題点をより具体的に議論する場であった。

Cにとって、技術的に詳しい亡Kから本音で込み入った技術的な話を聞く場として会合が位置付けられていた。

酒を飲めない亡Kは会食や接待が苦手 → 業務の必要があると判断して会合に参加

接待などに使う飲食費用はZが負担(しかし)→ 亡Kが使用できた接待費の月額枠20万円に収まらないほどの接待

会合は週に5回くらい(平成17年の9か月間)→ 亡KからZに対して請求のあった交際関係のレシートは48回分 → 亡Kの死亡後にさらに52枚のレシートが発見 → ZはXに対して200万円を超える金員を交際費として精算

(ii) 出張時における公共交通機関の使用を含めた移動時間 :「通常、その時間を如何に過ごすか、労働者の事由に任されている」もの(亡Kについて)→ 具体的に何らかの業務に従事していたのかを認めることが出来ない。→ 出張に伴う移動時間は、業務それ自体とは関連性がある。→ 一定の時間的拘束を含めた負荷が伴うもの(当該業務の過重性を検討すべき際)→ その考慮の要因の一つとして考えるべきではある。(しかし)→ それ自体を労働時間そのものとして認定することはできないといわざるを得ない。

(iii) 休息時間帯におけるトラブルなどへの対応 :正確な時間を算定することは困難 → 業務の過重性を判断するに当たっては、十分に考慮する必要がある。(休日出勤)→ これを認めるに足りる証拠はない。

③ 亡Kの時間外労働数 :次の通り → 亡Kの業務が量的に過重であったことは明らか(認定基準に沿って考えた場合)→ 亡Kの業務と本件疾病発症ないし同人の死亡との間には強い関連性
発症前1か月 73時間
発症前2か月 69時間
発症前3か月 約81時間
発症前4か月 約78時間
発症前5か月 約63時間
発症前6か月 約76時間

④ 質的過重性 :(亡Kの業務の質的過重性)→ 亡Kは寝ることが出来ず対応に追われる場合には睡眠時間が奪われる。→ 就寝中の電話やメールによって中途覚醒を強いられ、その後満足な睡眠をとれなくなったり、少なくとも睡眠の質が悪化していたことが推認 → 24時間オンコール体制下に置いて不規則な勤務状態にあったと評価するのが相当(出張における質的過重性)→ 亡Kの出張回数は著しく多いとまでは言えない者の同出張による精神的な負荷は大きかった。

<亡Kの業務の質的過重性>

(ア) 24時間携帯電話の電源をオンにすることが求められている。→ 24時間いつでも対応しなければならない状態に置かれていた。(重大障害が発生した際)→ 実際に出動して対応に当たっている。
(イ) 亡Kは、単身赴任先である大阪での住居を顧客であるCのネットワークセンターに比較的近いところを選んでいた。

<出張における質的過重性>

(ウ) 出張については、亡Kは社内において事務に従事していた。(出張先での会議終了後)→ 飲食を伴う接待を行っていた。(出張先での会議)→ Cからの厳しい注文などを受けていた。

⑤ リスクファクター :喫煙習慣(1日20本程度)、飲酒(ビール1本程度を週に3日以上)、くも膜下出血の好発年齢(56歳)といった事情 → 亡Kの業務は量的にも質的にも過重であったと認められる。→ 亡Kは高血圧ではないこと、飲酒量・喫煙量ともに著しく多量であるとはいえない。
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